不動産の価格が上がると、資産が増えたように感じます。特に、主要都市や交通アクセスのよい地域では、地価の上昇を実感している方もいるかもしれません。
ただし、地価の上昇は、手放しで喜べることばかりではありません。相続税を考えるときには、土地の評価額が上がることで、これまで課税対象ではなかったご家庭が対象になる可能性もあります。
一方で、全国すべての地域で同じように地価が上がっているわけではありません。人口減少や空き家の増加が進む地域では、利用ニーズが伸びず、価格が上がらない、あるいは下がる土地もあります。
だからこそ、「自宅や実家があるから大丈夫」「土地はあるけれど、いくらなのか分からない」のままにせず、不動産も含めた資産全体を一度確認しておくことが大切です。
路線価が上がると、相続税の土地評価にも影響する
国税庁が毎年公表する路線価は、相続税や贈与税で土地を評価するときの基準です。令和8年分の路線価等は、令和8年1月1日を評価時点とし、地価公示価格等を基にした価格のおおむね80%を目途に定められています。
路線価が上がれば、同じ土地でも相続税の計算上の評価額が上がることがあります。土地の形や面積、利用状況などによって計算は変わりますが、地価の変化を相続と無関係な話としては考えにくくなっています。

なお、地価が上がったからといって、固定資産税が同じ割合で直ちに上がるわけではありません。固定資産税には評価替えや負担調整などの仕組みがあるためです。それでも、不動産を持つ方にとって、土地の評価が家計や相続に関わる大切な数字であることは変わりません。
相続税の申告対象は、すでに10人に1人を超えている
国税庁の「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、亡くなった方のうち、相続税の申告書の提出に係る被相続人の割合は10.4%でした。前年の9.9%から上がり、初めて10%を超えています。
直近の推移を見ると、課税割合は少しずつ上がっています。
※課税割合は、亡くなった方のうち、相続税額のある申告書の提出に係る被相続人の割合です。国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」に掲載の課税割合の推移を基に作成。
この数字だけで「相続税がかかる人が増えた原因は地価上昇だ」と断定はできません。相続財産には預貯金、有価証券、保険金なども含まれます。近年の株価上昇などにより、金融資産が増えたご家庭もあるでしょう。

まず確認したいのは、相続税の基礎控除
相続税は、遺産があれば必ずかかるものではありません。まずは、正味の遺産額が基礎控除額を超えるかどうかを確認します。
基礎控除額は、次の式で計算します。

ただし、単純に預貯金と土地を足せばよいわけではありません。相続税の計算では、債務や葬式費用、非課税となる財産などを考慮します。また、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、状況によって適用できる制度もあります。
ここでは、正確な税額を自分だけで出そうとするよりも、まず「相続税の対象になる可能性があるか」を把握することが第一歩です。
不動産の価格は、一つではない
不動産の価値を確認しようとして、固定資産税の納税通知書や課税明細書を開く方は多いと思います。これは大切な出発点です。
ただし、納税通知書に記載された固定資産税評価額が、そのまま相続税の評価額や実際に売れる価格になるわけではありません。不動産には、目的によって複数の価格があります。
| 価格の種類 | 主な用途・特徴 |
|---|---|
| 固定資産税評価額 | 固定資産税などの計算の基準。納税通知書や課税明細書で確認できる。 |
| 相続税評価額 | 相続税・贈与税を計算するための価額。土地は路線価方式または倍率方式で評価する。 |
| 地価公示価格・都道府県地価調査価格 | 土地取引の目安となる公的な価格。 |
| 実勢価格 | 実際の売買で成立する価格。地域の需要、土地や建物の状態などで変わる。 |

国税庁が公表している路線価は、相続税評価額を計算するための基準です。路線価がない地域では、固定資産税評価額に定められた倍率を掛ける「倍率方式」で評価します。
つまり、固定資産税の納税通知書や課税明細書は資産点検の入口として役立ちますが、それだけで「実家はいくらで売れる」「相続税はいくらかかる」とは判断できません。目的に応じた価格を見ていく必要があります。
まずは、不動産を含めた資産を棚卸しする
相続税の対策というと、すぐに生前贈与や保険を思い浮かべるかもしれません。しかし、資産の全体像が分からないまま対策だけを急ぐと、本当に必要なことを見落としやすくなります。
まずは、次のようなものを書き出してみてください。
- 預貯金、株式、投資信託などの金融資産
- 自宅、実家、賃貸物件、土地などの不動産
- 生命保険の内容と受取人
- 住宅ローンなどの借入金
- 名義、共有状況、誰が引き継ぐ可能性があるか

不動産は、住んでいる人がいれば売却だけが答えではありません。ただ、相続が起きてから初めて名義や評価、管理方法を調べると、相続人の負担が大きくなります。
資産の一覧を作り、固定資産税の納税通知書や路線価図を確認する。必要に応じて不動産会社に実勢価格の目安を聞く。このように、数字を少しずつ見えるようにすることが、将来の選択肢を増やします。
相続税対策の前に、相続対策を考える
資産を確認して相続税の対象になる可能性が見えてきても、最初に考えたいのは税金だけではありません。
誰が何を引き継ぐのか。自宅には誰が住み続けるのか。実家や土地を残すのか、売るのか。親の思いと、相続人になる家族の考えを、元気なうちに話しておくことが大切です。

相続税対策は、こうした相続対策の一部です。税負担だけを先に考えると、家族にとって本当に必要な準備が後回しになることがあります。
また、「節税になるから」と、必要のない不動産を購入したり、仕組みを十分に理解しないまま保険に加入したりすると、かえって資金が動かしにくくなったり、手数料や維持費を含めて損になったりすることもあります。
提案された対策は、そのまま受け入れるのではなく、「自分の家族に本当に必要か」「税金以外の負担やリスクは何か」を一歩引いて確認することが大切です。
そのうえで、特例や控除が使えるか、納税資金をどう準備するかについて、早めに税理士などの専門家へ相談するとよいでしょう。ご家庭の状況によって、必要な準備は大きく異なります。
早めに確認する意味は、税金を減らすことだけではありません。納税資金の準備や、住み続ける人への配慮に、十分な時間を取れることです。
まとめ:資産が増えたときこそ、全体を見直す
地価や金融資産が上がることは、資産を持つ方にとって喜ばしい面があります。しかし、資産が増えれば、相続税や将来の分け方も含めて考える必要が出てきます。

大切なのは、不安になってすぐに何かを契約することではありません。まずは、預貯金だけでなく不動産も含めて、今どのような資産を持っているかを確認することです。
資産の全体像が見えれば、相続税の可能性、必要な準備、家族と話すべきことが少しずつ整理できます。路線価の上昇をきっかけに、将来のための資産点検を始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 国税庁「令和8年分の路線価等について」
- 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(課税割合の推移を含む)
- 国税庁「財産を相続したとき」
- 日本経済新聞「路線価上昇、相続税に備え」(2026年7月11日)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。相続税の計算や特例の適用は、財産の内容や家族構成などにより異なります。具体的な判断は、税理士などの専門家にご相談ください。