前回は、障害のある家族の「親亡き後」に備えるうえで、住まい、収入、生活費、支援者とのつながりについて考えました。
本人がどこで、どのような支援を受けながら暮らすのかが決まると、必要な生活費や家族が準備すべき資金も見えやすくなります。
しかし、必要な財産を残しただけで、将来設計が完成するわけではありません。
- その財産を誰が管理するのか。
- 毎月の生活費として、どのように本人へ届けるのか。
- 本人が重要な契約や手続きを一人で行うことが難しい場合、誰が支えるのか。
こうした財産管理や意思決定の仕組みを考えておかなければ、せっかく残したお金を、本人の生活に十分生かせない可能性があります。
今回は、前回整理した暮らしの土台を踏まえ、残した財産を本人の生活に生かすための財産管理、相続、成年後見などについて考えます。
多くのお金を残せば安心とは限らない
障害のある子どもの将来を心配し、
- できるだけ多くのお金を残してあげたい
と考える親御さんは少なくありません。
その気持ちは当然です。
しかし、本人に多額の預貯金や不動産を残せば、それだけで安心できるとは限りません。
本人が日常のお金を管理することが難しい場合、まとまった財産を本人名義で残すことで、かえって管理上の問題が生じることもあります。

例えば、
- 必要以上にお金を使ってしまう
- 悪質な勧誘や詐欺の被害に遭う
- 公共料金や家賃の支払いを忘れる
- 相続した不動産を適切に管理できない
- 契約内容を十分に理解できない
- 支援者が本人の財産状況を把握できない
といった問題が考えられます。
重要なのは、「いくら残すか」だけではなく、誰が、どのように本人のために管理するかです。
また、親が亡くなった直後にも、本人の家賃や生活費、福祉サービスの利用料などの支払いは続きます。親名義の預金は、相続手続きが終わる前に家族が自由に使えるものではありません。
相続手続きが終わるまでの生活費を、どの口座から、誰が支払うのか。財産の総額だけでなく、必要なときに本人の生活へ届けられる仕組みまで考えておく必要があります。
まず本人ができることと難しいことを確認する
財産管理の方法を考える前に、本人がどこまで自分で管理できるかを確認します。
金銭管理が苦手だからといって、すべてを他人に任せる必要があるとは限りません。
一方で、障害のある子どもが成人すると、親であっても当然に本人の財産を管理したり、契約を代理したりできるわけではありません。これまで家族が事実上行ってきた管理を、将来誰が、どのような権限で担うのかを整理しておく必要があります。

少額の日常生活費は自分で管理できても、高額な買い物や契約には支援が必要な方もいます。
反対に、支払い手続きや通帳管理を含め、継続的な支援が必要な方もいます。
例えば、次のように分けて考えると分かりやすくなります。
本人が自分でできること
- 毎日の買い物
- 少額の現金管理
- ATMから一定額を引き出す
- 領収書を保管する
支援があればできること
- 毎月の予算を決める
- 公共料金の支払いを確認する
- 高額な買い物を検討する
- 行政手続きを行う
継続的な代理や管理が必要なこと
- 不動産の管理や売却
- 複雑な契約
- 相続手続き
- 金融資産全体の管理
- 悪質商法からの保護
本人の能力や生活状況に合わない制度を選ぶと、必要以上に本人の自由を制限したり、反対に支援が足りなかったりすることがあります。
まず本人の状況を確認し、そのうえで必要な仕組みを選ぶことが大切です。
日常生活自立支援事業という選択肢
日常的な金銭管理や福祉サービスの手続きに支援が必要な場合、日常生活自立支援事業を利用できることがあります。
この事業では、社会福祉協議会などが、本人との契約に基づいて支援を行います。

支援の内容としては、
- 福祉サービスの利用手続きの援助
- 日常的な金銭管理
- 通帳や印鑑などの預かり
- 定期的な訪問や生活状況の確認
などがあります。
利用するには、本人が契約内容を理解し、利用する意思を確認できることが前提になります。
そのため、本人の判断能力が大きく低下している場合や、重要な財産処分が必要な場合には、別の制度を検討することになります。
日常生活自立支援事業は、財産全体を管理する制度ではなく、本人の日常生活を支えるための仕組みとして考える必要があります。
成年後見制度は本人の権利を守る制度
本人の判断能力が十分でなく、重要な契約や財産管理を一人で行うことが難しい場合には、成年後見制度を検討することがあります。
現在の成年後見制度には、本人の判断能力の状況に応じて、後見、保佐、補助があります。
また、本人の判断能力が十分にあるうちに、将来支援してもらう人を契約で決めておく任意後見制度もあります。
なお、2026年6月に成年後見制度を見直す改正法が成立しました。改正法の施行後は、後見と保佐を廃止して補助へ一元化し、本人に必要な範囲で利用できる仕組みへ変わる予定です。施行日は、公布から2年6か月以内に政令で定められます。それまでは現行制度が続くため、実際に利用を検討するときは最新情報を確認する必要があります。

成年後見人などは、本人の財産管理や契約手続きを支援し、本人の権利を守ります。
ただし、成年後見制度は、家族が本人の財産を自由に使えるようにする制度ではありません。
本人の財産は、あくまでも本人の生活や利益のために管理されます。
例えば、親族のために財産を贈与したり、相続対策を目的に資産を動かしたりすることが難しくなる場合があります。
また、現行制度では、一度利用すると、申立ての目的を終えたという理由や、家族の都合だけで終了することはできません。
そのため、
- 親が高齢だから、とりあえず成年後見を利用する
- 本人の財産が心配だから、すぐに後見人を付ける
という考え方ではなく、本人にどのような支援が必要なのかを十分に確認したうえで検討することが重要です。
成年後見人は家族がなるとは限らない
成年後見人には、家族が選ばれる場合もあれば、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選ばれる場合もあります。
家庭裁判所が、本人の状況や財産内容、家族関係などを踏まえて決定します。
家族が後見人になることを希望していても、必ず選ばれるとは限りません。
また、専門職が選ばれた場合には、本人の財産から報酬が支払われることがあります。
成年後見制度を検討する際には、
- 誰が支援者になる可能性があるか
- どの程度の支援が必要か
- 長期間利用する可能性があるか
- 費用はどの程度かかるか
- 本人の生活にどのような影響があるか
を確認しておく必要があります。
遺言で財産の残し方を決める
障害のある子どもに、他の相続人より多く財産を残したい場合には、遺言を作成する方法があります。
遺言がない場合、遺産は原則として法定相続分で相続人の共有となり、その後、相続人全員の話し合いで分け方を決めます。
親としては、障害のある子どもの将来を考え、多く残したいと思うかもしれません。

一方で、兄弟姉妹など他の相続人にも、それぞれの生活があります。
特定の子どもに財産を集中させると、他の相続人との関係や遺留分が問題になる可能性があります。
また、障害のある本人に多額の財産を直接相続させても、それを適切に管理できるとは限りません。
遺言を考える際には、
- 誰に何を残すか
- 不動産を残すか、現金化するか
- 生活費として使いやすい形になっているか
- 他の相続人にどのように説明するか
- 遺言執行者を誰にするか
まで考える必要があります。
遺言は、財産の配分を決めるだけでなく、親の考えを家族に伝える役割もあります。
不動産を残すことが負担になる場合もある
「住む場所に困らないように」と、現在の自宅を本人に残したいと考える方もいます。
しかし、不動産には、固定資産税、修繕費、火災保険料、庭や建物の管理などが必要です。
本人が一人で維持できない場合、支援者や他の家族が管理することになります。

また、将来グループホームなどへ移ることになった場合、自宅が空き家になる可能性もあります。
売却したくても、本人の判断能力や成年後見制度の利用状況によっては、簡単に処分できない場合があります。
不動産を残す場合には、
- 本人が実際に住み続けられるか
- 建物の維持管理を誰が行うか
- 修繕費を準備できるか
- 将来売却する可能性があるか
を考える必要があります。
本人のために残した不動産が、将来の負担にならないようにすることが大切です。
信託を利用した仕組み
本人へ一度に大きな財産を渡すのではなく、信頼できる人が財産を管理し、必要な生活費を定期的に本人へ渡す仕組みとして、信託を検討することがあります。
一般に家族信託や民事信託と呼ばれる方法では、財産を管理する人、利益を受ける人、管理方法などを契約で決めます。「家族信託」は法律上の制度名ではなく、家族などが受託者となる民事信託の一般的な呼び方です。

ただし、信託を利用すれば、すべての問題が解決するわけではありません。
- 長期間にわたって財産を管理できる受託者がいるか
- 受託者が高齢になったり亡くなったりした場合、誰が引き継ぐか
- 税務上や法務上の問題はないか
- 本人の生活状況が変わった場合に対応できるか
こうした点を慎重に検討する必要があります。
また、信託が扱うのは主に財産管理です。本人に代わって身の回りの契約や福祉サービスの手続きをすべて行えるわけではないため、必要に応じて成年後見制度や福祉の支援体制と組み合わせて考えます。
信託は個別性が高いため、弁護士、司法書士、税理士などの専門家に相談しながら設計することが重要です。
生命保険を利用する場合の注意点
生命保険を使って、親が亡くなった後の資金を準備する方法もあります。
死亡保険金は、受取人を指定することができ、比較的早く支払われる点が特徴です。
ただし、障害のある本人を受取人に指定した場合、その保険金を誰が管理するのかという問題が残ります。
- 本人が多額の保険金を一度に受け取ることが適切か
- 保険金の請求手続きを誰が行うか
- 本人に成年後見人が必要になる可能性はないか
こうした点を確認する必要があります。
生命保険は、資金を準備する手段の一つですが、財産管理の仕組みと組み合わせて考えることが重要です。
制度や方法の役割を整理する
ここまで紹介した制度や方法は、それぞれ目的が異なります。
| 制度・方法 | 主な役割 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 日常生活自立支援事業 | 日常的な金銭管理や福祉サービスの利用手続きを支援する | 本人が契約内容を理解し、利用する意思を確認できることが必要 |
| 成年後見制度 | 契約や財産管理を法的に支援する | 家族が選ばれるとは限らず、現行制度では家族の都合だけで終了できない |
| 遺言 | 誰に何を残すかを決める | 相続後の財産管理までは行えない |
| 信託 | 財産を管理し、決めた方法で本人へ届ける | 受託者の確保と専門的な設計が必要 |
| 生命保険 | 親の死亡後に必要となる資金を準備する | 保険金を受け取った後に誰が管理するかは別に考える必要がある |
どれか一つを選べば、すべての課題が解決するわけではありません。本人に必要な支援を確認し、複数の制度や方法を組み合わせて考えることが大切です。
兄弟姉妹へ負担を集中させない
親が亡くなった後は、兄弟姉妹が本人を支えてくれると期待している家庭もあります。
しかし、兄弟姉妹にも、自分の仕事、家庭、子育て、老後があります。
本人を大切に思っていても、金銭管理、通院、行政手続き、福祉サービスとの調整、緊急時の対応を、長期間一人で担うことは簡単ではありません。
大切なのは、「兄弟姉妹に任せるか、任せないか」という二択ではありません。
兄弟姉妹には本人との関係を保ちながら必要な場面で相談に乗ってもらい、日常生活は福祉サービス、財産管理は制度や専門家を活用する。このように役割を分けることで、負担を集中させない仕組みをつくることができます。
本人に関する情報を引き継ぐ
財産の準備だけでなく、本人に関する情報を残すことも重要です。
長年支えてきた家族は、本人の生活リズム、苦手なこと、安心できる環境、体調を崩しやすい状況などをよく理解しています。
しかし、その情報が家族の頭の中にしかなければ、突然支援できなくなったとき、他の支援者へ十分に伝わりません。
例えば、次のような情報を整理しておくと役立ちます。
- 通院先、服薬内容、利用している福祉サービス
- 本人の生活リズムと、一人でできること
- 支援が必要なことと、落ち着くために有効な対応
- 好きなことや大切にしている習慣
- 緊急時の連絡先
- 年金、手当、預貯金、保険、契約の状況
- 本人が望んでいる将来の暮らし
これは、本人を管理するためではありません。
本人らしい生活を、家族以外の支援者へ引き継ぐための準備です。
将来設計とは、お金を残すことだけでなく、本人を理解し、支えるための情報と人間関係を残すことでもあります。
将来設計は一度決めて終わりではない
障害のある方の状態、家族の年齢、利用できる制度、地域の福祉サービスは、時間とともに変わります。
一度計画を作っても、そのまま何十年も使えるとは限りません。

- 親が退職したとき
- 本人の働き方が変わったとき
- 障害年金の受給状況が変わったとき
- 住まいを変更したとき
- 親が病気になったとき
- 相続や財産管理の方法を決めるとき
こうした節目ごとに計画を見直す必要があります。
最初から完璧な仕組みを作ろうとすると、なかなか始められません。
まず現状を整理し、今できることから一つずつ準備を進めることが大切です。
おわりに|財産だけでなく、管理する仕組みを残す
障害のある家族の「親亡き後」を考えるとき、親はどうしても、
- できるだけ多くのお金を残さなければならない
と考えがちです。
しかし、十分な資産があっても、それを管理する人や仕組みがなければ、本人の安心した生活にはつながりません。
大切なのは、必要な資金を準備するだけでなく、残した財産を誰が管理し、生活費としてどう本人へ届け、重要な契約や手続きを誰が支えるのかまで、一つの計画として考えることです。
成年後見、遺言、信託などには、それぞれ役割と注意点があります。
制度名から選ぶのではなく、本人に何ができ、何に支援が必要なのかを確認したうえで、家族、福祉関係者、法律や税務の専門家と一緒に考えることが大切です。
家族だけですべてを抱え込む必要はありません。
公的制度、福祉サービス、専門職、家族が残す財産を組み合わせることで、現実的な将来設計をつくることができます。