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同じ数字、同じ質問文を、3つのAIに投げてみました。

返ってきたのは、「安心です、優秀な家計です」と「80代前半でお金が尽きます」。相談者にとって、これ以上ない重大な差です。

「お金の相談、AIを活用」という記事を読んで

日本経済新聞のマネーのまなびに、「お金の相談、AIを活用」という記事が載っていました(2026年8月1日付)。見出しには「最初の質問を工夫、過信禁物」とあります。

AIとお金の相談をテーマにした日経新聞の記事を読み解くイメージ
制度や商品の解説ではなく、道具としての使い方に踏み込んだ記事でした。

まさしく、私の仕事そのものです。

AIの登場で、あらゆる業務が代替され、仕事を奪われるのではないかと戦々恐々としている業種や労働者があります。その心配自体はもっともで、これまでと同じことをやっていれば、AIに取って代わられる仕事もあるでしょう。

しかし、もうAIを止めることはできません。柔軟に対応して活用していくしかない。これまでも幾度となく文化革命は起きており、その都度、便利な反面、否定や悲観的な意見が出されるものの、いずれも止めることはできず、順応していくしかありませんでした。そして、早く順応して活用した人が勝ち組となり、躍進していった。今、まさにAI革命が起きています。

普通なら「ああ、これで仕事が取られるのか」と思うところです。ですが私は、全く不安視していません。

本当の意味での「お金の相談」は、AIにはできないと思っているからです。

とはいえ、思っているだけでは説得力がありません。そこで、実際に試してみました。

モデル家庭を作って、3つのAIに同じ質問をした

まず、架空のモデル家庭を設定しました。実在の相談者ではありません。

  • 本人60歳・会社員、手取り年400万円(65歳まで再雇用で勤務)
  • 配偶者58歳・専業主婦、子ども2名は独立して扶養外
  • 持ち家戸建て(時価1,800万円)、住宅ローンなし
  • 預金1,800万円、NISA500万円、企業型DC900万円、株式500万円(金融資産合計3,700万円)
  • 企業年金として、60歳から年100万円を10年間受給中
  • 生活費は月30万円、ほかに旅行費、車2台の買替え、住宅修繕などの臨時支出
  • 公的年金の見込みは本人月20万円・妻月10万円(額面)、夫婦の手取りで年310万円
  • 生命保険・医療保険は加入なし

この情報を、日経の記事に載っていた質問文の例をほぼそのまま使って投げました。「あなたは家計相談の経験豊富なFPです。以下の情報を基に、資産形成の現状を整理してください。投資助言ではなく、収支、生活防衛資金、資産配分、負債など、今後確認すべき論点にわけて、見落としやすい点を指摘してください」というものです。

同じモデル家庭の情報を、GPT・Claude・Geminiの3つのAIに投げるイメージ
投げたのは、それぞれの上位モデルです。

使ったのは、GPT-5.6 Sol、Claude Opus 5、Gemini 3.1 Pro Preview の3つです。

全く同じ数字、全く同じ質問文。条件はそろえました。

なお、今回の検証には、複数のAIを切り替えて使えるプラットフォーム「Genspark」を利用しました。各社のサービスから直接聞いたものではないため、同じモデル名でも本家の環境とは挙動が異なる可能性があります。また、それぞれ1回ずつ質問した結果です。AIの回答は毎回同じとは限らず、聞き方や時期によって変わります。いずれも2026年8月時点のモデルで、Geminiはプレビュー版です。

まず感じた、率直な評価

説明の丁寧さやボリュームで受けた印象は、GPT、Claude、Geminiの順でした。

第一印象の評価で、GPTが1位、Claudeが2位、Geminiが3位となったことを表す図
この順位は、このあとの章でほとんど意味を失います。

GPTは論点の数が多く、確認すべき事項を細かく挙げてきました。Claudeは論点の絞り込みが的確で、読み物として一番読みやすい。Geminiは丁寧ですが、やや優等生的な整理にとどまった印象です。

ただし、これはあくまで「読みやすさ」の評価にすぎませんでした。

本当に驚いたのは、この後です。

結論が、真っ二つに割れた

同じ数字、同じ質問なのに、出てきた答えが正反対でした。

AI企業年金100万円の扱い出した結論
Gemini「収入」として計上70歳時点で2,599万円。90歳で底を突くリスクはかなり低く、優秀な家計
Claude資産900万円の取り崩しと判定84〜85歳前後で金融資産が尽きる
GPT同じく取り崩しと判定83〜84歳前後で尽きる

ClaudeとGPTは、ほぼ同じ時期を指しています。割れたのは、Geminiだけでした。

「安心・優秀な家計」と「80代でお金が尽きる」という正反対の結論に分かれた分岐路の図
受け取った答え次第で、その後の行動はまるで変わります。

「安心です、優秀な家計です」と、「80代前半でお金が尽きます」。

相談者にとって、これ以上ない重大な差です。この家庭が2つの答えのどちらを受け取るかで、その後の行動は全く変わってしまいます。

そして、どちらも自信たっぷりに、丁寧な文章で説明してくるのです。

なぜ割れたのか。理由は3つとも「前提の置き方」だった

企業年金の扱い・前提を疑うか・試算の範囲という、結論が割れた3つの理由
計算力の差ではなく、3つとも入口の置き方の違いでした。

理由1:企業年金100万円は、収入なのか

一番大きかったのがこれです。

このモデル家庭の企業年金100万円は、企業型DCの900万円を年金の形で受け取っているものです。つまり、外から新しく入ってくるお金ではなく、すでに自分が持っている900万円を、毎年100万円ずつ現金に換えているだけです。

ClaudeとGPTは、ここを「資産の取り崩しであって収入ではない」と見抜きました。だから収入から外して計算しています。

Geminiは、これを収入に入れました。すると年間の収入が100万円多く見える。家計の実力を毎年100万円分、過大に評価したことになります。

これは、ご相談を受けていて本当に多い勘違いです。通帳に入金があるので、どうしても「収入」に見えてしまう。ですが資産全体で見れば、右のポケットから左のポケットに移しているだけなのです。

理由2:与えられた前提を疑ったかどうか

渡した数字そのものを疑ったのは、ClaudeとGPTでした。

Claudeは、妻の年金が月10万円という前提は要確認だ、ずっと専業主婦(第3号被保険者)であれば、老齢基礎年金は満額でも月7万円弱で、厚生年金の加入歴がなければ10万円には届かない、と指摘してきました。

これは、モデル家庭を作るときにあえて置いた、ありがちな思い込みの数字でした。ご相談に来られる方が、配偶者の年金額を実額で把握しないままお越しになることは珍しくありません。仮に月3万円ずれていれば、30年で1,000万円を超える差になります。

GPTは「その360万円は額面ですか、手取りですか」と確認してきました。企業年金についても、「900万円のDC資産を10年間で受け取っているという意味なら、これは取り崩しです」と、前提を確かめたうえで結論を出しています。いきなり断定しない、慎重な運びでした。

Geminiは、どちらもそのまま受け入れて計算を進めました。

理由3:どこまで先を試算したか

Geminiのキャッシュフロー表は、70歳までしか作られていませんでした。70歳時点ではまだ2,600万円残っている。だから「安心」という結論になった。

ですが、資産が減り始めるのはその後です。80代、90代まで表を伸ばせば、当然、結論は変わります。

では、使う側は、どちらを信じればいいのか

ここが、私が一番申し上げたいところです。

複数のAIの答えを前に、どちらを信じるか迷う天秤の図
見比べられる人にしか、見比べる意味がありません。

3つの答えのうち、どれが正しいのか。それを見抜くためには、あらかじめ正解に近いものを知っている必要があります。

企業年金が資産の取り崩しだと分かっている人は、Geminiの答えを見て「これはおかしい」と気づけます。ですがそれが分かっている人は、そもそもAIに聞かなくても自分で判断できる人です。

逆に、それが分からない人は、AIの答えを検証できません。3つのうちどれか1つしか使わなければ、割れていることにすら気づかない。丁寧で読みやすい文章で「優秀な家計状況です」と言われれば、そのまま信じてしまうでしょう。

日経の記事にも、注意点として「意思決定をAIに任せない」「自分の意思を断定的に伝えない」と書かれていました。東京大学大学院の山崎俊彦教授は、記事の中でAIを「非常に多くの道具が入った工具箱」に例え、どの道具をどんな目的で使うかによって得られる結果が変わる、と説明されています。

まさにそのとおりだと、実験してみて実感しました。工具箱を渡されても、どの工具をどう使うかを知らなければ、家は建たないのです。

AIが得意なこと、不得意なこと

誤解のないように申し上げますが、AIは十分に使えます。

AIが得意なのは計算と論点の洗い出し、不得意なのは総合的な判断と価値観であることを示す図
できることとできないことは、はっきり分かれていました。

3つのAIは、いずれも「毎月10万円のNISA積立は、給与の余剰から出ているのではなく、預金から振り替えて成り立っている」という点を、そろって指摘してきました。ご本人ではなかなか気づきにくいところですが、ここは3つとも同じ結論にたどり着いています。

臨時支出を年額に均す計算も的確でした。シートには「年間の臨時支出20万円」と書きましたが、車2台の買替えや住宅の修繕まで含めて均せば、実際には年110万円相当になります。そのうえで年間支出は約476万円。この金額は、3つとも同じでした。

計算そのものは、どのAIも正確なのです。割れたのは、その数字をどう解釈するかという前提の部分でした。

ですから、教育資金がいくら必要かとか、住宅ローンをどう組むかといった単発の試算や比較検討には、十分使えると思います。個人が単発を積み上げていくには、いい道具です。

一方で、限界も感じました。

キャッシュフロー表やグラフで説明してほしいと頼めば、それなりのものは出てきます。ですが、文字で作った簡略版で、どうにも納得感がない。文字で羅列されてもイメージがつかみにくいのです。

そして、一方的に説明されても、自分の聞きたいところはそこではない、と思う人も多いはずです。

結果的に、私たちFPが作成する総合的なライフプランとは程遠い、という感覚を持ちました。何もかも含めたトータルの試算には、まだ向いていません。

AIは、聞かれたことしか答えない

ここまでは、今の性能の話です。性能が上がれば解消するかもしれません。

ここからは、性能が上がっても変わらないと私が考えている話です。

AIは聞かれたことだけに答え、聞かれていないことには答えないことを示す図
問いにならなかったものは、そのまま置き去りになります。

AIは基本的に、聞かれたことしか答えません。

ところが、相談の現場でいちばん大事なのは、本人が「問題だ」と気づいていないことです。相談に来られる方が最初に口にする悩みと、実際に手を打つべきところが違っている、ということが本当によくあります。

これはデジタル終活のすすめ|自分でも分からなくなる前に、資産と契約を整理するで書いた「本人が把握していないものを、家族が分かるはずがない」と同じ構図です。本人が気づいていないことは、そもそも質問になりません。

FPの役割は、その深層心理を探して、うまく引き出すことです。面談の中で、表情や言いよどみ、話の順番から、本当に引っかかっているものを見つけていく。この点は、AIがどれだけ勉強しても補えない領域ではないかと思います。

そもそもFPの仕事は、お金のことだけでは解決しません。

その人の人生観や価値観、絶対に譲れない事柄を、面談の中でうまく吸い上げて、ライフプランに織り込んでいく。これはまさしく、機械的にはできないことです。

時々、「相談したことがあるんです」と言われることがあります。話を聞いてみると、お金の相談よりも人生相談のウエイトのほうが大きかった、ということがたまにあります。そういう場面では、柔軟性と経験が必要だと感じざるを得ません。

先ほどのモデル家庭でいえば、「車を1台にすれば年間の不足は大きく減る」という試算は、AIでも出せます。実際、そう提案してきました。

ですが、その1台が、ご主人が長年大事にしてきた車だったら。あるいは奥様が、その車があるから週に一度実家の親の様子を見に行けているのだとしたら。

数字の上では正しい提案が、その家族にとっての正解とは限りません。そこを聞き出して、一緒に考えるのが、私たちの仕事です。この点は家族でお金の話、できていますか?にも通じます。

AIを使うなら、気をつけたい2つのこと

AI活用の2つの注意点として、質問力をみがくことと個人情報を守ることを挙げた図
どちらも、使い始める前に決めておきたいことです。

今回いちばん強く感じたのは、AIの力を引き出せる質問力がないと、いい答えは出てこないということです。

これはお金の相談に限った話ではなく、AIとの付き合い方全般に言えることだと思います。ある程度のスキルがないと使いこなせない、というのが今の状況のようです。

日経の記事にも、最初の質問には「あなたはFPです」といった役割と、背景・目的・制約を入れるとよい、とありました。実際、私が今回使った質問文は、記事の例文をほぼそのまま借りたものです。あの例文だったからこそ、ここまでの回答が出てきたとも言えます。

もう一点、忘れてはならないことがあります。個人情報をそのまま入力しないということです。

実際にご自身の家計を相談しようとすれば、収入も資産も、かなり生々しい数字を入力することになります。氏名や住所、勤務先、金融機関名、口座番号まで入れる必要はありません。年齢と概算の金額、たとえば「60代前半、会社員」「現預金約1,800万円」といった粒度があれば、家計の骨格は十分に整理できます。

同じ記事の注意点には、「学習に利用しない」設定にしないと他の人の回答に影響を与える可能性がある、とも挙げられていました。設定を一度確認しておくことをおすすめします。

まとめ。AIを使う方が増えるほど、FPの出番は増える

では、私の結論です。

冒頭に、この記事を読んでも全く不安視していない、と書きました。実験を終えて、その思いはむしろ強くなりました。

AIは、優秀な道具です。単発の計算や、論点の洗い出しには十分使えます。私自身も、手元に資料がなくて急いで調べたいときや、複数の想定を並べて比べたいときには使うことがあります。ただし、それはあくまで補助です。相談で使う試算は、基本的に自分で組み立てたものを使っています。今回のように、前提の置き方ひとつで結論が正反対になるものを、検証せずにお客様にお渡しするわけにはいきません。

AI利用者が増えるほどFPの出番も増えることを、2本の上向き矢印で示した図
取り合う関係ではなく、並んで伸びる関係だと考えています。

そして私は、AIを使う方が増えることを、むしろ歓迎しています。

そう思う根拠があります。

実際に、金融リテラシーの高い方が、ご自身でライフプランを作ったうえで相談に来られることがあります。数字はきちんと組めている。知識も十分にお持ちです。それでも、「本当にこれでいいのか」という部分が晴れない。だから、その道の専門家に一度聞いておきたい。そう思われるのが本音ではないでしょうか。

これは、使った道具が優秀かどうかとは別の話です。自分ひとりで出した答えは、どれだけ精緻に作り込んでも、自分では確かめようがありません。誰かに見てもらって初めて、腹に落ちる。

ですから、AIが広まって、ご自身で試算される方が増えれば増えるほど、この「一度確かめておきたい」と思う方も増えていくはずです。

ご自身でAIに聞いてみてください、と申し上げたいくらいです。おそらく、そこそこ整理された答えが返ってきます。ですが、しばらく使ううちに気づかれるはずです。答えは返ってくるけれど、これで決めていいのかどうかが分からない。自分が聞きたかったのは、たぶんここではなかった。そう感じる方が少なくないと思います。

その「腑に落ちない感じ」こそが、答えです。

お金は使って初めて価値が生まれるものです(家計管理は、自由な人生を選ぶための土台)。そして、本当に必要な額は人によって違います。その額をいくらに置くかは、もはや計算の問題ではなく、その人がどう生きたいかという人生論の領域です。家計管理もライフプランも、その答えを見つけるためのきっかけにすぎません。

AIは、聞かれたことに答えてくれます。ですが、何を聞くべきかは教えてくれません。

そこを一緒に探すのが、私たちFPの仕事です。

本記事のモデル家庭は架空の設定です。記載した試算はいずれも一定の前提を置いた概算であり、年金額や税・社会保険料は制度改正や個人の加入歴によって変わります。実際のご判断にあたっては、ねんきん定期便などで実額をご確認ください。記事中で言及した各AIサービスの提供各社との間に、広告・紹介等の関係はありません。