「顧客満足度No.1」。その大きな文字の裏で、誰に、何を聞いたのでしょうか。
みんなが選んだNo.1と、自分にとって価値のある物は、同じとは限りません。
日本経済新聞の「『満足度No.1』は本当?」という記事を読みました(2026年8月22日付)。
「顧客満足度No.1」「医師の90%が推奨」「売上No.1」。テレビでもインターネットでも、こうした広告をよく見かけます。
私は以前から、このような表示を見るたびに疑問を感じていました。
何を根拠に1位なのでしょうか。本当に使った人へ聞いたのでしょうか。
広告ですから、商品をよく見せたい気持ちは分かります。企業には、売りたい、目立ちたい、選ばれたいという目的があります。しかし、そのためなら消費者の思い込みや、周囲に遅れたくないという心理を利用してもよい、ということにはなりません。
強い表現の広告を何度も見せられ、受け手のほうまで「あんなに良いはずがない」「またやっている」と慣れてしまう。その状態が当たり前になっていることにも、私は違和感があります。
「自分は広告など信じない」と思う方もいるでしょう。
しかし、消費者庁の調査では、No.1表示を見たことがある回答者825人のうち、購入の意思決定に「かなり影響する」が4.6%、「やや影響する」が44.4%でした。合わせて49.0%、ほぼ2人に1人です。
私たちは思っている以上に、「みんなが選んでいる」という言葉に動かされています。

No.1は「商品の実力」ではなく「調査の結果」です
No.1と大きく書いてあると、同じ種類の商品を広く比べ、その中で最も優れていたように感じます。
しかし、No.1はあくまで、一定の条件で行われた調査の結果です。
何を比較対象にしたのか。誰に聞いたのか。どんな質問をしたのか。いつ調べたのか。これらが変われば、1位になる商品も変わります。

特に「顧客満足度No.1」と書かれていれば、実際にその商品やサービスを利用した人へ聞いたと思うのが普通でしょう。
ところが消費者庁は、商品やサービスの利用経験を確認せず、ウェブサイトなどを見た印象だけで回答させる「イメージ調査」を、満足度No.1の根拠としていた例を確認しています。
使ったことのない人が、ウェブサイトを見ただけで「満足度が高そう」と答える。それをもとに「顧客満足度No.1」と表示する。
これでは、消費者が言葉から受け取る意味と、実際の調査内容が違います。
No.1という結果だけを見るのではなく、どのように作られたNo.1なのかを見る必要があります。
No.1表示そのものが禁止されているわけではありません
誤解のないように申し上げると、No.1表示や比較広告のすべてが問題なのではありません。
きちんと調べた結果、本当に1位であれば、その事実を広告に使うことはできます。
一方、合理的な根拠がなく、事実と異なる表示によって、実際よりも著しく優良または有利だと消費者に思わせる場合は、景品表示法上の問題になります。
消費者庁は、満足度のような主観的評価によるNo.1表示について、少なくとも次の4つが必要だと示しています。
- 比較する商品やサービスが、適切に選ばれている
- 調査対象者が、適切に選ばれている
- 調査が、公平な方法で行われている
- 広告の表示内容と、調査結果が対応している

難しい法律を覚える必要はありません。
No.1と書くには、それに見合った調査が必要です。 まずは、それだけ覚えておけば十分です。
「No.1を取りませんか」と売り込む会社もあります
今回の問題は、広告を出す企業だけを批判すれば終わる話ではありません。
日経の記事では、No.1表示が増えた背景について、調査会社が企業へ「No.1にするための調査ができる」といった内容で声をかけるケースが増えている、という業界関係者の指摘が紹介されています。
つまり、企業が自ら1位を調べようとするだけではありません。最初から「No.1」という広告材料を売る目的で、調査会社などが企業へ営業をかけるケースが増えているということです。

消費者庁の調査も、この構図を裏付けています。広告主への聞き取りでは、自らNo.1表示を考えて調査会社を探した企業と、調査会社やコンサルティング会社から勧誘・提案を受けた企業があり、後者のほうが多く見られました。
調査費用は、1つのフレーズにつき10万円から数十万円という例が多くありました。
中には、次のような言葉で勧誘する会社もあったといいます。
- 結果が悪ければ費用は発生しない、または返金する
- 1位が取れるまで追加費用なしで再調査する
- 顧問弁護士が確認しているので安心
- 不当表示のリスクがないよう、合理的な根拠を納品する
1位が取れるまで調べ直すのであれば、それは商品の実力を確かめる調査ではなく、広告に使える1位を作る作業に見えます。
さらに、適法性を強調して勧誘しながら、実際には利用者へ聞かないイメージ調査を納品していた会社も、消費者庁によって確認されています。私は、これは悪質だと思います。
一方で、依頼した企業の側にも問題があります。
消費者庁のヒアリング対象15社のうち、どのような質問をしたのか、何社と比較したのか、回答者へ何を見せたのかまで、具体的な調査内容を把握していた企業は1社だけでした。
「調査会社を信頼していた」「他社も使っていたから大丈夫だと思った」。そうした回答が多かったとされています。
調査会社へ任せたとしても、広告を見せて商品を売るのは、その企業です。消費者庁も、No.1表示についての責任は広告主が負うとしています。
調査会社がNo.1を企業へ売り込み、企業は内容を十分に確認せず広告に使い、消費者はその大きな文字を見て商品を選ぶ。
No.1という広告材料そのものが、商品として売買されている。 これが、今回見えてきた構図です。
買う前に、小さな文字を3つだけ見てください
No.1表示を見つけるたびに、調査報告書を探す必要はありません。
気になる商品なら、広告の下やウェブサイトに書かれた注記を見て、次の3つを確認してみてください。

誰に聞いたのか
実際に商品を使った人へ聞いたのでしょうか。それとも、商品を使っていない人を含むイメージ調査でしょうか。
「顧客満足度」と書きながら、利用経験を確認していなければ、表示と調査の間にずれがあります。
何と比べたのか
市場の主要な商品が、比較対象に含まれているでしょうか。
限られた商品だけ、特定の地域だけ、短い期間だけを比べた1位かもしれません。「何の中で1位なのか」が分からなければ、判断材料としての価値も分かりません。
いつ、どのように調べたのか
調査時期は古くないか。調査会社、回答者数、質問内容が示されているか。
大きく書かれた「No.1」だけではなく、その近くにある小さな文字にこそ、判断に必要な情報があります。
注記が見つからない、読んでも調査方法が分からない。それなら、No.1という表示はいったん判断材料から外したほうがよいでしょう。
SNS広告では、No.1以外の「権威づけ」にも注意してください
SNSの広告は、さらに注意が必要です。
No.1表示だけでなく、著名人の名前や画像、専門家の肩書、「利用者の90%が支持」、口コミ、ランキング、体験談などが一緒に使われます。
これらがすべて不正というわけではありません。しかし、たくさん並ぶほど「これだけ根拠があるのだから大丈夫だろう」と、考えることをやめやすくなります。

実在する企業や著名人を無断で使った詐欺広告もあります。広告に名前や顔が出ているからといって、その人が本当に勧めているとは限りません。
広告の中にあるリンクから、すぐに購入や申込みをしないでください。会社名や商品名を自分で検索し、公式サイトにも同じ情報が掲載されているかを確かめます。
「今だけ」「残りわずか」「必ずもうかる」といった、考える時間を奪う言葉が重なっていたら、いったん画面を閉じることです。
SNS広告については、SNS詐欺広告から資産を守る。「自分は大丈夫」と思う人ほど注意したいでも詳しく書いています。
企業は、商品だけでなく「周りからの評価」も売っています
ここからは、家計管理の話です。
私たちは、商品の機能や価格だけで物を買っているわけではありません。
みんなが買っているから。流行に遅れたくないから。持っているところを見せたいから。人より良い物を持っていると思われたいから。
こうした気持ちも、購入を後押しします。
企業は、その心理をよく理解しています。「No.1」「人気」「売れ筋」「限定」「今だけ」という言葉で、買わなければ取り残されるような気持ちをつくります。同じ広告を何度も見せ、見慣れた商品に安心感を持たせ、購入へ向かわせます。

企業が商品を売ろうとするのは当然です。しかし、消費者の不安や同調心理を必要以上に刺激し、買わせ続けることまでが当たり前になってよいとは、私は思いません。
ただし、企業だけが悪いわけでもありません。
消費者庁のヒアリングでは、企業がNo.1表示を行った理由として多かったのが、競合他社もNo.1を使っているからでした。「自社だけ表示しなければ見劣りする」という不安です。
企業も他社に遅れたくない。消費者も周りに遅れたくない。
よく似た構図です。
企業も消費者も「みんながやっている」に流され、その結果、どこを見てもNo.1だらけになる。だからこそ最後は、買う側が自分の基準を持つしかありません。
「離れ小島でも買いますか」と自分に聞いてみる
私は、物を買うときの判断方法として、こう考えてみるのがよいと思っています。
周りに誰もいない離れ小島で暮らしているとして、それでも、その商品を買いますか。

誰にもブランドを見せられません。SNSにも載せられません。流行を知る人も、羨ましがる人もいません。
それでも使いたい。それでも持っていたい。生活が便利になる。自分の時間が楽しくなる。
そう思える物なら、自分自身がその商品に価値を感じている可能性が高いでしょう。
反対に、誰にも見られないなら買う意味がないと思う物は、商品そのものではなく、周りからの評価を買っているのかもしれません。
高級品やブランド品を否定しているのではありません。品質やデザイン、使い心地に心から満足して買うのであれば、誰に見せなくても価値があります。
他人から評価されたいという気持ちも、人間にはあります。それ自体が悪いわけではありません。
ただ、その評価のためにいくら払うのか。それを自覚しないまま買い続ければ、家計には限りがあっても、欲しい物には限りがなくなります。
満たされない買い物は、次の買い物を呼びます
これは、私が家計や人の消費行動を見ながら感じてきたことですが、心理学や消費者行動の研究にも、近い結果があります。
米国の消費者研究者マーシャ・リッチンズは、2つの横断研究と1つの縦断研究で、商品を欲しいと思っているときと、購入した後の感情を調べました。
その結果、物を持つことに幸福を期待する傾向が強い人は、購入前には「これを買えば生活が大きく変わる」という期待が高まる一方、購入後には商品から得られる感情が低下するという傾向を一貫して示しました。所有することよりも、欲しがっている時間のほうが楽しい可能性も示されています。
欲しいときが、満足の頂点になってしまうのです。手に入れれば期待が現実に変わり、思ったほど生活は変わらない。この落差は、また次の「欲しい物」を探す一因になり得ます。
もう一つ、コーネル大学の研究では、旅行や外食のような「経験」への支出と比べて、モノへの支出は満足が比較によって下がりやすいことが、8つの実験で示されています。買わなかった別の商品、同じ商品の別の価格、そして他人が持っている物。この3種類の比較が、いずれもモノの満足を弱めていました。経験は他人のものと比べにくく、比較の影響を受けにくいのです。
これは「離れ小島でも買うか」という問いともつながります。満足の基準が自分の使い心地ではなく、他人との比較に置かれていると、もっと新しい物、もっと高い物を持つ人が現れるたびに、今ある物の価値が下がって見えるからです。
さらに、259の独立したサンプル、753の効果量をまとめたメタ分析では、物やお金を人生の中心に置く傾向と、幸福度の低さとの間に関連が確認されています。ただし、これは「物を買うと不幸になる」という意味ではありません。物質的な価値を優先する傾向が強い人ほど、全体として幸福度が低いという関連です。
研究が示しているのは、人は誰でも同じ結果になるということではありません。しかし、買う前の期待が大きすぎること、他人との比較を基準にすること、物によって人生を変えようとすることは、購入後の満足を弱めやすいとは言えます。
周りの目を気にして買った物は、満足が長く続きにくいのではないでしょうか。
買った直後は注目されます。「いいですね」「新しいですね」と言ってもらえるかもしれません。しかし、周りが見慣れれば反応はなくなります。新しい商品が出れば、今持っている物は古く見えます。
満足の源が自分の中ではなく、他人の反応にあるからです。
すると、また次の新商品、次の流行、次のNo.1が欲しくなる。前の買い物で満たされなかった部分を、次の買い物で埋めようとします。

反対に、自分が本当に欲しくて、必要性や使い道に納得して買った物は、使うこと自体が満足になります。周りが気づかなくても関係ありません。新商品が出たからといって、すぐ買い替える必要もありません。
満足度の高い物を選べれば、次々に物を買って満足を補う必要がなくなります。
家計を整えるために大切なのは、我慢して何も買わないことではありません。買った後も満足できる物を、きちんと選ぶことです。
迷ったら、その場で買わずに数日待つ
広告を見た直後、セール会場にいるとき、ランキング1位を見つけたときは、欲しい気持ちが強くなっています。
その場で決済せず、いったん保留してください。
本当に必要な物なら、数日待ったからといって、その必要性がなくなることはありません。反対に、広告によって一時的に高まった気持ちは、少し時間を置けば落ち着きます。

待っている間に、次の4つを確認します。
- 何に使うのかを、一文で説明できるか
- すでに持っている物で代用できないか
- 誰にも見られなくても欲しいか
- 数日後でも、同じ価格で欲しいと思えるか
それでも必要だと思えば、買えばよいのです。
安いか高いかだけで決める必要もありません。高くても長く使い、生活を豊かにする物なら、十分に価値があります。
大切なのは、買わないことではありません。
自分で選んだと言える買い方をすることです。
家計管理は、安い物を探すことではありません
家計管理というと、安い店を探す、特売日にまとめて買う、欲しい物を我慢する、といった節約を思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、安くても不要な物を買えば無駄になります。高くても、その人の生活を豊かにし、長く使える物には価値があります。

問題は、金額だけではありません。
広告や周囲の空気に押され、自分の優先順位を確かめないまま買ってしまうことです。
何にお金を使っているのかを確認する方法は、支出の中身をまず確認しようで書きました。ただ支出を減らすのではなく、その中から自分にとって大切な支出を見つけるためです。
家計管理の目的は、使わないことではありません。価値を感じない物への支出を減らし、本当に大切なものへお金を回すことです。
この考え方は、家計管理は、自由な人生を選ぶための土台にもつながります。
自分の基準で物を選べるようになれば、企業のNo.1にも、周囲の流行にも、必要以上に振り回されなくなります。
まとめ。みんなのNo.1より、自分の基準で選ぶ
No.1表示が、すべて信用できないわけではありません。適切な調査に基づく表示もあります。
ただし、No.1という大きな文字だけで、商品の価値が証明されるわけでもありません。
買う前に、次のことを確認してください。
- 誰に聞いたのか
- 何と比べたのか
- いつ、どのように調べたのか
そして最後に、自分自身へ問いかけます。
誰も見ていなくても欲しいですか。これは本当に、自分に必要な物ですか。
すぐに答えが出なければ、数日待てばよいのです。それでも欲しいと思えるなら、周りではなく、自分が選んだ買い物に近づきます。

みんなが選んだNo.1と、自分にとって価値のある物は、同じとは限りません。
周りに誰もいない離れ小島でも、それを買いますか。
その問いに「はい」と答えられる物こそ、あなたにとって本当に価値のある物なのではないでしょうか。
- 消費者庁「No.1表示に関する実態調査報告書」(2024年9月26日)
- 消費者庁「表示に関するQ&A」Q27・Q28
- 消費者庁「比較広告」
- 日本経済新聞「『満足度No.1』は本当?」(2026年8月22日付)
- Marsha L. Richins, “When Wanting Is Better than Having”, Journal of Consumer Research, 2013
- Travis J. Carter and Thomas Gilovich, “The Relative Relativity of Material and Experiential Purchases”, Journal of Personality and Social Psychology, 2010
- Helga Dittmarほか「物質主義と個人の幸福度の関係に関するメタ分析」, Journal of Personality and Social Psychology, 2014
※No.1表示が景品表示法上問題となるかどうかは、個々の表示内容や調査方法などによって判断されます。本稿は、特定の商品・企業・調査会社について違法性を判断するものではありません。※本稿は2026年8月時点の情報を基にしています。