ブログ一覧へ戻る

「年収106万円の壁」「130万円の壁」。ニュースなどでよく聞く言葉ですが、結局、何が違うのかと思っている方も多いのではないでしょうか。

実はこの2つ、似た金額の話に見えて、まったく別のことを決める基準です。

そして、ここを理解していないと、「130万円を超えたら勤務先の厚生年金に入れると思っていたのに、入れなかった」ということが起こります。今回は、できるだけ難しい言葉を使わずに整理してみます。

※ここでは主に、会社員・公務員などの配偶者に扶養されている、20歳以上60歳未満の方を想定します。税金の扶養や、会社独自の配偶者手当とは別の話です。

まず、2つの質問に分けて考えます

社会保険の扶養を考えるとき、最初から「106万円」「130万円」と金額で考えると分かりにくくなります。次の2つに分けてください。

① 自分の勤務先の社会保険に入るのか。

② 入らない場合、配偶者の扶養に残れるのか。

この2つです。106万円と130万円は、それぞれ違う質問に関係しています。

106万円は勤務先の社会保険、130万円は配偶者の扶養という異なる基準

106万円は「自分の勤務先の社会保険」の話

いわゆる「106万円の壁」は、勤務先で健康保険・厚生年金に加入するかどうかに関係する基準です。

ただし、106万円を超えれば誰でも厚生年金に入る、という意味ではありません。

まず、社会保険の適用事業所で、週の所定労働時間と月の所定労働日数がどちらも通常の社員の4分の3以上なら、原則として加入対象です。それに届かない短時間勤務の人は、次の条件で判断します。

要件内容
① 賃金所定内賃金が月額8.8万円以上
② 時間週の所定労働時間が20時間以上
③ 会社の規模厚生年金の加入者数が51人以上の企業など
④ 学生原則として学生ではないこと
⑤ 雇用期間2か月を超えて雇用される見込みがあること

※③の人数は、単純な従業員総数ではありません。短時間労働者を除く厚生年金の被保険者数で判定し、法人では同じ法人の事業所を合計します。50人以下でも、労使の合意により適用を広げている企業などは対象です。学生にも休学中・夜間学生などの例外があります。

「106万円」というのは、①の月額8.8万円を12か月分にした金額(105.6万円)の通称です。正式な基準は年収ではなく月額8.8万円のほうです。

つまり、年収が106万円を超えていても、働く時間や勤務先などによって、加入対象にならない場合があります。ここが最初のつまずきどころです。

なお、①の所定内賃金には、残業代・賞与・通勤手当などは含めません。後で説明する130万円の扶養判定とは、収入の数え方も違います。

勤務先の社会保険への加入は賃金だけでなく、働く時間や勤務先などの条件で判断する

この賃金要件は2026年10月に撤廃される予定です。背景には、最低賃金の上昇があります。最も低い県でも時給1,023円になり、週20時間働けば原則として月8.8万円に届く水準になったためです。

今後は「106万円」という金額より、週20時間以上働くかどうかが判断の中心になります。

130万円は「配偶者の扶養」の話

一方の130万円は、配偶者の健康保険の扶養に入っていられるかという基準です。原則として年間収入が130万円以上になると、配偶者の扶養から外れます。

ただし、130万円未満なら必ず扶養に入れるわけではなく、配偶者に生計を維持されていることも必要です。また、60歳以上や一定の障害がある方は、収入基準が原則180万円未満になります。

130万円は配偶者の健康保険の扶養に残れるかを考える基準

ここで、多くの人がこう考えます。「扶養から外れるなら、自分の会社の社会保険に入ればいいのでしょう」

ところが、必ずしもそうではありません。

扶養から外れるのに、厚生年金には入れないことがある

具体例で見てみます。どちらも年収は約143万円で、契約上の収入が継続して130万円以上になるため、配偶者の扶養からは外れます。

いずれも通常の社員が週40時間勤務の職場で、賞与・手当はなく、1年間同じ契約で働くものとします(年収は「時給×週の時間×52週」の概算)。

例①:週19時間・時給1,450円で働くAさん

年収は約143万円。しかし、勤務先の社会保険の要件のうち「週20時間以上」を満たしていません。

例②:週25時間・時給1,100円で働くBさん。勤務先の厚生年金加入者数は30人

年収は約143万円。週20時間以上は満たしていますが、企業規模の要件を満たしません。ここでは、勤務先が任意の適用拡大も行っていないものとします。

Aさんは週19時間で時間要件を満たさず、Bさんは勤務先の規模要件を満たさない。どちらも年収約143万円で扶養から外れる例

どちらも結果は同じです。

配偶者の扶養には入れない。でも、勤務先の厚生年金にも入れない。

この場合、自分で国民健康保険と国民年金に加入することになります。これが「130万円を超えると負担が増える」と言われる大きな理由の一つです。

例②のように、週20時間以上働いていても、勤務先の規模によって加入できないケースにも注意が必要です。2026年8月時点の地域別最低賃金の最低額は時給1,023円。この時給でも、週25時間・年52週なら年収は約133万円になり、130万円を超えます。

なお、例②のBさんは、ずっとこのままではありません。企業規模の要件は今後、段階的に縮小されるからです。

時期対象になる企業の規模(厚生年金の加入者数)
現在51人以上
2027年10月から36人以上
2029年10月から21人以上 ← Bさんはここで加入対象に
2032年10月から11人以上
2035年10月から10人以下も対象(=撤廃)

※Bさんは、勤務先の加入者数や本人の働き方が変わらなければ、2029年10月から対象となります。

制度は「一定以上働く人は、勤務先の社会保険に加入する」という方向へ、10年かけて動いています。

保険料を払っても年金が増えない、とはどういうことか

ここも非常に分かりにくいところです。

配偶者の扶養に入っている第3号被保険者は、自分で国民年金保険料を払っていなくても、老齢基礎年金の加入期間として扱われます。

ところが扶養から外れて第1号被保険者になると、自分で国民年金保険料を払うことになります。2026年度の国民年金保険料は月17,920円、年間で215,040円です。ここに国民健康保険料も加わります。

その期間の保険料を全額納めても、同じ期間を第3号として過ごした場合と、老齢基礎年金への反映は同じです。つまり、新たに保険料を払うようになったのに、その分だけ基礎年金が上乗せされるわけではありません。

一方、勤務先の厚生年金に加入すれば、基礎年金に加えて厚生年金が上乗せされます。ここが決定的な違いです。

第3号では自分で保険料を払わなくても年金に反映されますが、第1号になると原則として納付が必要です。負担は増えるのに、第3号で同じ期間を過ごした場合より基礎年金が増えるわけではない——ここが分かりにくさの正体です。

同じ期間なら第1号の納付と第3号で基礎年金への反映は同じ。厚生年金には上乗せがある

ただし、保険料の支払いが何も反映されないわけではありません。納めた期間は基礎年金の受給額に反映され、未納にすれば将来の年金が減る原因になります。

国民年金・国民健康保険の保険料は、実際に支払った人の社会保険料控除の対象です。課税される所得があれば税負担の軽減につながりますが、保険料全額が税金から戻るわけではありません。また、第1号被保険者には月400円の付加保険料という、第3号にはない上乗せの選択肢もあります(国民年金基金加入者などは対象外)。

だから「130万円を超えるか」だけでは判断できない

パートで働く時間を増やそうとするとき、「130万円を超えない方がいいですか」という相談はよくあります。しかし、本当に確認したいのは130万円だけではありません。

まず、自分の勤務先で社会保険に加入する働き方になるのかを確認します。加入しないのであれば、配偶者の健康保険の扶養に残れるのかを確認します。この順番で考えると、かなり整理しやすくなります。

まず勤務先の社会保険への加入を確認し、加入しない場合に配偶者の扶養に残れるかを確認する順序

手取りではなく、生涯で見るとどうなるか

「壁」の話は、どうしても目先の手取りに集中しがちです。しかし、影響が大きいのは生涯で見たときのほうです。

① 正社員を続ける場合と、退職してパートで再就職する場合

内閣府が2024年6月に公表したモデル試算では、妻が出産後に退職し、年収100万円のパートで再就職した場合、正社員を続けた場合と比べて、世帯の生涯可処分所得は約1.4億円少ないとされています。

この約1.4億円は、離職している期間や、その後の正社員・パートという働き方の違いを含んだ差です。「扶養を外れるだけで1.4億円増える」という意味ではありません。

② パート同士で、年収100万円と150万円を比べる場合

ここからは比較する相手を変えます。どちらも退職後にパートで再就職する場合で、正社員との比較ではありません。年収100万円で扶養に残る場合と、年収150万円で勤務先の厚生年金に加入する場合の差を、同じ内閣府の試算で見てみます。

項目(税・社会保険料を差し引いた後)100万円→150万円の差
妻の給与所得+約600万円
妻の年金所得+約800万円
夫の配偶者手当−約220万円
世帯の生涯可処分所得+約1,200万円

配偶者手当を失うマイナスまで差し引いても、世帯全体で約1,200万円のプラスという試算です(夫の配偶者控除・配偶者特別控除は、この2つのケースで同額のため差に影響しません)。年収200万円まで増やす場合は、約2,200万円のプラスとされています。

※各金額は概数のため、内訳の合計と総額が一致しない場合があります。

年金所得の増加分約800万円は、日経記事で東京大学の山口慎太郎教授が紹介している数字と対応しています。

※夫婦と子ども2人、妻は29歳で退職し38歳で再就職、65歳で退職、夫は88歳・妻は93歳まで生きる等の前提による試算です。2024年当時の制度で計算しており、誰でも同じ差額になるという意味ではありません。育児・介護・体調など、働ける時間を左右する事情も一緒に考える必要があります。

扶養から外れて保険料負担が生じると、収入の増やし方によっては、目先の手取りが減ることがあります。しかし、勤務先の厚生年金に入れる働き方なら、生涯で見た結果は逆になり得ます。

目先の手取りだけでなく、働く経験や給与と将来の年金まで生涯で考える

面白い調査もあります。スイスで、パート勤務の教員である母親約2,400人を対象に、短時間勤務が生涯収入や年金に与える影響を解説する動画と試算ツールを提供する実験が行われました。将来の収入減を小さく見積もっていた母親の層では、情報を受け取った人の翌年の実際の勤務時間が、比較対象のグループより約7%増えました。参加者全員に同じ効果が出たという結果ではありません。

同じ研究の別の調査では、母親の約9割が、働き方を決める際の重要な要素として、年金など長期のお金への影響を挙げていませんでした。制度が異なるため結果をそのまま日本に当てはめることはできませんが、目先だけでなく将来への影響も知ることには意味があると思います。

扶養の判定方法にも注意点があります

130万円の判定は、単純に1月から12月までの収入を足して130万円、というだけではありません。

原則は、これから1年間の収入見込みで判断します。2026年4月からは、給与収入のみで、労働契約上の年間収入が130万円未満と明らかな場合、契約内容をもとに認定する取扱いが始まっています。諸手当や賞与も含めますが、契約段階で見込みにくい時間外労働の賃金などは含めません。年金や事業収入など、給与以外の収入もある場合は従来どおりの判定です。

また、人手不足による残業などで一時的に収入が増えた場合には、事業主の証明を添え、原則として連続2回の収入確認まで扶養を継続できる特例もあります(2023年10月に始まった「年収の壁・支援強化パッケージ」の取扱い)。証明を出せば自動的に認められるのではなく、健康保険の保険者が判断します。

ただし、基本給の引上げや契約時間の増加によって、恒常的に年間収入が130万円以上になる場合は、この特例の対象ではありません。あくまで、一時的な収入増への対応です。また、勤務先の社会保険の加入要件を満たした人が、加入を避けるために使うこともできません。

扶養の判定では労働契約の年間収入と一時的な収入増の取扱いを確認する

なお、協会けんぽであれば基本的な認定基準は共通ですが、企業独自の健康保険組合では、確認方法や必要書類などの運用に違いがある場合があります。130万円を超えたから絶対に扶養から外れる、と自分だけで判断せず、配偶者の勤務先や加入している健康保険に確認してください。

第3号被保険者の制度そのものが、見直しの対象になっています

ここまでは、いまある制度の話でした。最後に、この先の話を一つだけ。

2025年11月21日に閣議決定された「『強い経済』を実現する総合経済対策」には、進める社会保障改革の項目が並んでいます。その中に、こう書かれています。

配偶者の社会保険加入率上昇及び生涯非婚率上昇等をも踏まえた第三号被保険者制度等の見直し

これらについて「令和7年度中に具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行い、順次実施する」とされています。令和8年度とは、いま私たちがいる年度のことです。

理由は、書かれているとおりです。制度ができた当時の前提が変わったからです。第3号被保険者制度は、片働き世帯が多数だった時代に作られました。しかし今は、配偶者自身が勤務先の社会保険に入る人が増え、そもそも結婚しない人も増えています。

ただし、この閣議決定は、第3号被保険者制度の廃止や実施日を定めた法律ではありません。すでに決まっている勤務先の社会保険の適用拡大と、第3号の制度そのものをどう変えるかという検討は、分けて受け止める必要があります。

私がここから読み取るのは、配偶者の扶養を前提とする働き方だけでなく、本人の働き方に応じて社会保険に加入する方向を考えておく必要があるということです。106万円の賃金要件撤廃と企業規模要件の縮小は決まっていますが、第3号の見直しの具体策まで同じように決まったわけではありません。

第3号制度の見直しについて、本人の働き方に応じた社会保険加入の方向性を考える
図は方向性のイメージです。第3号制度の廃止や具体策の決定を示すものではありません。

だとすれば、「今の第3号のまま、この先ずっと同じ条件が続く」という前提で働き方を決めるのは、少し危ういかもしれません。壁の位置は動きます。動いたときに困らない働き方を考えておく、という視点は持っておいてよいと思います。

まとめ

106万円と130万円は、同じ「年収の壁」と呼ばれていますが、意味は違います。

区分何を決める基準か
106万円の壁自分の勤務先の社会保険に加入するかどうか
130万円の壁配偶者の扶養に残れるかどうか

そして一番注意したいのは、130万円以上になって扶養から外れても、必ず勤務先の厚生年金に入れるとは限らないということです。働く時間や勤め先の規模によっては、国民健康保険と国民年金を自分で負担することになります。

扶養から外れ、勤務先の厚生年金にも入れない場合は国民健康保険と国民年金へ

働く時間を増やすときは、次の2つを分けて確認してみてください。

① 自分の勤務先の社会保険に入るのか。

② 入らないなら、配偶者の扶養に残れるのか。

制度が複雑だからこそ、「いくらまで働けば得か」だけを見るのではなく、自分がどの社会保険に入ることになるのかを確認することが大切です。そして、目先の手取りだけでなく、生涯で受け取る年金まで含めて考えると、答えが変わることもあります。

※この記事は2026年8月時点の制度にもとづいています。掲載したモデル試算は2024年公表時の前提によるもので、個別の手取り額や年金額を保証するものではありません。実際の加入・扶養の判断は勤務先や加入している健康保険へ、個別の税務は税務署や税理士へご確認ください。