ブログ一覧へ戻る

ファイナンシャルプランナーが旅行の話をするのは、少し意外に思われるかもしれません。

資産を積み上げて老後の不安をなくすことは、たしかに仕事の柱のひとつです。ただ、それは目的ではなく手段です。目的は、充実した人生のお手伝いをすること。お金は使って初めて価値を生むのですから、価値ある支出は人生を豊かにします。旅行は、その代表格でしょう。

その旅行の「行きどき」が、いま静かに変わりつつあります。日本経済新聞に「旅行ピーク、夏から秋に」という記事が出ていました。読んでみると、なるほどと思う数字が並んでいます。ただ、見出しから受ける印象と、数字が語っていることは、少しだけ違っていました。

航空・鉄道・宿泊の収益が、10〜12月期に伸びた

まず、事実の確認から始めます。

ANAホールディングスの2025年10〜12月期の連結営業利益は830億円で、前年同期比32%の増益でした。同じ年度の7〜9月期は608億円で、前年同期比22%の減益。10〜12月期が7〜9月期を大きく上回っています。

日本航空も同じ形です。10〜12月期の連結EBIT(利払い・税引き前損益)は694億円で19%の増益。7〜9月期は642億円で1%の増益にとどまりました。10〜12月期が7〜9月期を上回るのは、これが初めてです。

鉄道も同じ方向を向いています。JR東海の運輸収入は、10〜12月期が前年同期比8%増の4,225億円で四半期として最多。7〜9月期の4,023億円を上回りました。JR西日本も10〜12月期が6%増の2,534億円で、7〜9月期の2,384億円を超えています。

ただし鉄道については、伸び率で見ると別の姿になります。JR東海の7〜9月期は18%増、JR西日本は7%増で、いずれも10〜12月期の伸び率を上回っています。金額の水準では10〜12月期が最も高いものの、伸びの勢いという点では7〜9月期のほうが強かったことになります。

宿泊も同様です。米コスター・グループ傘下のSTRが調べた国内ホテルの平均客室単価を四半期ごとに比べると、10〜12月期が最も高い約2万2,200円で、前年同期比で1割上がっています。

航空、鉄道、宿泊。業種をまたいで、同じ方向に動いています。

ただし、ここで一点ことわっておきます。これらは旅行者数そのものではなく、企業の収益や単価の数字です。航空会社の営業利益には貨物やマイル関連の事業も含まれます。実際ANAは2025年8月に日本貨物航空を子会社化しており、10〜12月期の連結売上高には、前年同期にはANAの連結対象外だったこの会社の売上498億円が含まれています。したがって、全社の営業利益の伸びを、旅客需要の季節変化だけで説明することはできません。

航空・鉄道・宿泊の7〜9月期と10〜12月期の収益や単価を比較した図
航空・鉄道・宿泊では、金額の水準が10〜12月期に高まりました。ただし、旅行者数そのものを示す数字ではありません。

ですから、正確には「旅行のピークが移った」ではなく、「旅行関連企業の収益のピークが移りつつある」ということになります。この違いは、あとの話にも効いてきます。

今年のお盆の減少は、猛暑だけでは説明できない

記事は、この変化の背景として猛暑を挙げています。実際、2026年のお盆期間(8月7日〜16日)の国内線利用者は、ANAが前年比7.7%減の146万7,546人、JALが5.8%減の109万8,816人と、両社そろって前年を下回りました。

ただ、この数字だけを見て「猛暑で夏の旅行を控えた結果」と読むわけにはいきません。

両社の発表で減少の理由として挙げられているのは、台風13号・15号の影響による遅延や欠航です。JALは台風の影響で沖縄方面を中心に約470便が欠航したとしており、ANAでも欠航が発生しました。さらに令和8年熊本地震を受けて、九州域内の移動手段を確保するため福岡―鹿児島線に計76便の臨時便を設定しています。

もうひとつ、日経紙面が挙げているのが大阪・関西万博の特需の剥落です。万博は2025年4月から10月まで開かれていましたから、前年のお盆には万博へ向かう人の流れがありました。今年はその反動が出ています。つまり、前年の数字のほうが特殊だったということです。

そして注目したいのが、予約段階の数字です。ANAの国内線予約数は162万9,105人で前年比97.8%、予約率は83.6%でした。予約はほぼ前年並みに入っていたのです。

搭乗率もANAが88.3%、JALが86.9%と高い水準を保っています。空席が目立っていたわけではありません。

鉄道に目を移すと、また違う姿が見えます。同じお盆期間のJR6社の主要区間の利用者は1,321万5,000人で、前年同期比では微増でした。航空は減り、鉄道は増えている。もし猛暑で人が動かなくなったのであれば、鉄道も同じように減るはずです。

お盆期間の航空利用者減少を台風や万博反動など複数の要因から整理した図
航空利用者の減少には、台風による欠航や前年の万博特需の反動など、複数の要因が重なっています。

お盆の利用実績だけから、「猛暑で夏の旅行離れが起きた」と結論づけることはできません。予約はほぼ前年並みで、台風による欠航という供給側の要因と、万博特需の反動という需要側の要因が重なった結果です。猛暑を持ち出さなくても、数字はおおむね説明がつきます。ただし、この数字は、暑さが旅行行動全体に影響していないことまで示すものでもありません。

では、旅行そのものは減ったのか

暑さが人の行動を変えているのは事実です。ロッテが行った調査では、約7割が真夏の暑さを理由に外出をやめる・時間を短くすることが増えたと答えており、控えた行動の3位に観光レジャー(24.0%)が入っています。日本インフォメーションの調査でも、暑さを理由に外出時の行動範囲が狭くなると答えた人が58.0%、節約したい費目の筆頭に旅行・レジャー費を挙げた人が46.2%にのぼりました。

一方で、直近の実績を見ると、旅行支出は伸びています。

観光庁の調査によれば、2026年4〜6月の日本人国内旅行消費額は前年同期比11.7%増の7兆5,361億円。延べ旅行者数も3.3%増の1億4,958万人でした。帝国データバンクの試算でも、猛暑によって外出機会が減り被服への支出が落ちる一方、宿泊料とパック旅行費はむしろ増えています。

ただし、これは本格的な猛暑期に入る前の数字です。7月・8月の状況を直接示すものではありません。

その夏休み期間については、JTBが事前の見通しを出しています。7月15日から8月31日の国内旅行者数は前年比4.4%減、国内旅行消費額は1.4%減という予測です。一方で1人当たりの平均旅行費用は3.2%増えると見込まれています。JTBは同時に、国内旅行では暑さを避け、屋内など涼を求める過ごし方が人気だと分析しています。

暑さによる行動変化と国内旅行消費の動きを対比した図
暑さで外出を控える動きがある一方、旅行支出や旅行者数の動きは調査時期によって異なります。

これらを合わせると、現時点で「夏の旅行そのものは減っていない」と言い切ることはできません。行く人の数は減る一方で、1人当たりの支出は増える。暑さによって、旅行をやめる人だけでなく、行き先や過ごし方を変える人も増えている。そう見るのが適切でしょう。

夏が長くなった分、旅の季節も後ろにずれたのか

では、なぜ収益のピークが後ろにずれたのでしょうか。

2025年の夏(6〜8月)の日本の平均気温は平年差プラス2.36℃で、これまで最も高かった2023年・2024年のプラス1.76℃を上回り、観測史上最高となりました。8月5日には群馬県伊勢崎で41.8℃を記録し、国内最高気温を更新しています。

問題は、夏が8月で終わらなくなったことです。2025年9月は、月平均気温が9月として1位となった観測地点が19地点にのぼりました。東京で最高気温が30℃を下回るようになるのは9月中旬以降という見通しが出るほど、残暑は常態化しています。

ここで最初の数字に戻ってみてください。伸びているのは7〜9月期ではなく、10〜12月期です。

もっとも、四半期の数字だけでは、9月単月の動きまでは分かりません。7月・8月の落ち込みを9月が補い切れなかった、という可能性も残ります。

ただ、旅行関連企業の収益が10〜12月期に強まっていることは、長引く残暑によって、旅行の需要が10月以降へ移っている可能性を示しています。秋が人気になったのではなく、秋の入り口が10月になった。そう考えると、今回の動きにも納得がいきます。

長引く残暑と旅行需要が10〜12月へ移る可能性を示した図
長引く残暑を背景に、旅行の時期が10〜12月へ移っていく可能性があります。

なお、訪日客が暑さを避けて秋に移っているという見方も紙面にはあります。ただ、2026年7月の訪日外客数は344万2,100人で前年同月比0.1%増、7月として過去最高を記録しました。夏の訪日が減っているとは、まだ言えません。紅葉シーズンを選ぶ動きがあるという航空会社の実感は、これから数字で確かめられていく段階でしょう。

「8月は高い」は本当か

ここからは、私自身の話を少しだけ。

先日、価値あるお金の使い方として、シンガポールへ行ってきました。行き先と時期を検討していて、意外だったことがあります。費用は8月が安く、9月以降になるにつれて段々と高くなっていく。だから8月に行くことにしました。

夏休み期間の8月は高いものだと、長いこと思い込んでいました。ところが、そうでもなかったのです。コロナ禍でしばらく海外に出られない間に、状況は変わってきているのかもしれない、と感じました。

ただ、これを一般論として書くわけにはいきませんので、調べてみました。結果は、実感と逆でした。

航空券の価格は、1月(年始を除く)が最も安く、8月に向かって上がっていき、8月を過ぎると年末に向けて下がっていくというのが一般的な形とされています。東南アジア方面でも、安いのは9月中旬から10月上旬、高いのは7月中旬から8月末という整理が多く見られます。9月以降は、むしろ「安い時期」に分類されるのが常識でした。

では、なぜ逆に見えたのでしょうか。理由はいくつか考えられます。

ひとつは、同じ8月でも前半と後半では別物だということ。高いのは主に7月中旬から8月中旬で、お盆が明けた8月下旬は需要が急に落ちるため、月内でもはっきり安くなります。「8月」とひとくくりにすると、この谷は見えません。

もうひとつは、行き先側の事情です。F1シンガポールグランプリは2026年10月9日から11日に開催されます。この開催に向けた需要の影響も考えられます。「9月以降、段々高くなる」という値動きは、10月に向けた上昇を見ていた可能性があります。

日本側の連休も効いてきます。2026年は敬老の日が9月21日で、19日から3連休になります。9月全体が高いのではなく、この前後が高かったのかもしれません。

結局のところ、月単位の常識はあてになりません。同じ月でも前半と後半で違い、行き先の側にも事情がある。「8月は高い」も「秋は安い」も、その年その行き先では簡単にひっくり返ります。

同じ8月でも時期や行き先のイベントによって旅行価格が変わることを示す図
旅行価格は月だけで決まらず、月の前半・後半、連休、行き先のイベントによって変わります。

ですから、自分の行きたい日程で、自分で調べる。これに尽きます。誰かの常識で判断していたら、この時は損をしていました。

ちなみに、今回の滞在中は、年中温暖なシンガポールより、日本の夏のほうが暑く感じました。温暖な地域から来る方にとっても、夏の日本はこたえるだろうと実感したところです。

時期をずらしやすい人、ずらしにくい人

旅行の季節が動いているとして、その時期に動けるのは誰なのでしょうか。

観光白書によると、10〜50代の約6割は主に休日に旅行しています。仕事や学校の休みに合わせるしかない層が、この年代の中心だということです。白書自身も、旅行需要の平準化を課題として挙げています。裏を返せば、休日に縛られない層は、混雑や暑さを避けて時期を選びやすい立場にあります。

実際、旅先では高齢のご夫婦をよく見かけるようになりました。時間に余裕のある層が、気候のいい時期に動いている。そう見えます。

ただ、ここは慎重に見ておきたいところです。「高齢者の旅行が増えている」と言えるほど、データはきれいではありません。

観光目的の国内宿泊旅行の経験率を年代別に見ると、2024年は20代以下が64.0%、30〜40代が54.1%、50〜60代が47.3%、70代以上が30.7%でした。70代以上は7割近くが宿泊旅行をしていない計算になります。しかも各年代がほぼコロナ前の水準まで戻っているなかで、70代以上だけは2019年比で7.9ポイント減と回復が進んでいません。旅行しない最大の理由は、健康上の問題です。

白書は、年間の旅行回数を見ると旅行に行かない層と多く行く層がともに増え、旅行の実施が二極化していると分析しています。10〜20代は実施傾向が高まる一方、70代では下がっています。

つまり、高齢層全体で旅行が増えているのではありません。70代以上では、旅行しない人が増え、全体として旅行の実施傾向が下がっています。旅先で目に入るのは、当然ながら「行ける人」のほうです。行けなくなった方は、そもそも旅先にはいません。

ここに、この記事で一番お伝えしたいことがあります。

時間の自由と、健康と、お金。この3つが同時に揃っている期間は、思っているより短いということです。

旅行時期をずらしやすい人とずらしにくい人、時間・健康・お金の関係を示す図
時間・健康・お金が同時にそろい、自由に旅行できる期間は、思っているより長くありません。

現役の間は、仕事などで時間の自由を得にくいものです。退職後は時間ができますが、今度は健康のほうに期限がついてきます。そして70代以上で旅行を諦める最大の理由が健康上の問題であることは、統計がはっきり示しています。

お金は、使って初めて価値を生む

冒頭に戻ります。

資産を積み上げること自体は、目的ではありません。貯めたお金を人生の豊かさに変えるには、どこかで使う必要があります。この考え方は、家計管理は、節約ではなく、お金を活かすためにあるにも書きました。

ですから、貯蓄の途中であっても、使えるお金は日々の満足度を上げるために使っていいと考えています。「使えるようになってから使おう」と考えていると、先ほど見たとおり、健康のほうが先に期限を迎えることがあります。

高齢者は資産を持っている、とよく言われます。数字だけを見れば、その通りではあります。総務省の家計調査によると、二人以上の世帯の平均で、世帯主が60〜69歳の世帯は貯蓄現在高が2,843万円、負債が234万円。純貯蓄額2,609万円は全年代で最も多くなっています。70歳以上も貯蓄2,471万円、負債81万円です。

ただし、注意したい点が2つあります。

ひとつは、これがあくまで平均だということ。二人以上の世帯の貯蓄現在高の平均は2,059万円ですが、貯蓄保有世帯の中央値は1,264万円です。平均と中央値の間には、800万円近い開きがあります。平均を見て「みんなこれくらい持っている」と考えると、実態を見誤ります。

もうひとつは、すでに取り崩しが始まっていること。二人以上の世帯のうち、世帯主が65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高は2,494万円で、前年から減少しました。この減少は6年ぶりです。

ですから「高齢者はお金を持っているのだから使うべきだ」という話にはなりません。順番が逆です。

安心して使える設計があって、初めて人はお金を使えるようになります。

貯めたお金を体験や思い出に使い人生の豊かさへつなげる考え方を示す図
貯めることを目的にせず、安心して使える設計によって、お金を人生の豊かさへ変えていきます。

いくらまで使っていいのか。それが分からないままでは、いくら持っていても使えません。逆に、この額までなら使っても大丈夫だと分かれば、同じ資産でも使えるようになります。ライフプランを立てる意味は、そこにあります。

旅行費は「余ったら」ではなく「先に」

最後に、家計の話として整理しておきます。

旅行費は、年間の費目として先に確保する。

「余ったら行く」では、余りません。生活費が先で旅行費が後という順番にしている限り、旅行はいつまでも後回しになります。先取り貯蓄と同じ発想で、年に一度の旅行費をあらかじめ別に取り分けておく。そうしておけば、使うときに罪悪感がありません。この「罪悪感がない」ということが、実は一番大事なところです。先取りの仕組みそのものについては、いくら貯金できていますか?先取り貯蓄で黒字家計をつくるで詳しく書いています。

退職後の旅行費用は、ライフプランに最初から組み込む。

老後資金のシミュレーションに旅行費が入っていなければ、いざ行こうとしたときに「取り崩していいのだろうか」と迷うことになります。最初から入れておけば、迷いません。

時期をずらせる自由は、50代以降の強みになる。

仕事や学校の休みに縛られなくなれば、混雑期を外して、安く快適に行けます。ただし、その「安い時期」は固定ではありません。長引く残暑によって、旅行の時期が10〜12月へ移っていく可能性があります。今日の穴場は、来年の繁忙期かもしれません。毎年、自分の日程で確かめ直すことをおすすめします。

旅行のベストシーズンが動いているように、お金の使いどきも一律ではありません。必要な額も、使うタイミングも、人によって違います。その答えは統計の中にはなく、一人ひとりの人生の中にしかありません。

旅行費を先に確保しライフプランに組み込む方法を示す図
旅行費を年間予算として先に確保し、ライフプランに組み込むことで、罪悪感なく使えるようになります。

そこを一緒に考えるのが、ファイナンシャルプランナーの仕事だと思っています。

出典

  • 日本経済新聞 2026年9月2日「旅行ピーク、夏から秋に 航空・宿泊の収益、10〜12月伸び」(JR6社のお盆利用者数、JR東海・JR西日本の四半期運輸収入、STRの客室単価、万博特需の剥落)
  • ANAホールディングス「2026年3月期 第3四半期決算説明会資料」(2026年1月30日)
  • 日本航空「2026年3月期 第3四半期連結業績」「2026年3月期 第2四半期連結業績」「2025年3月期 第3四半期連結業績」
  • ANAグループ・JALグループ「2026年度お盆期間 ご利用実績/ご予約状況」
  • 観光庁「旅行・観光消費動向調査」2026年4〜6月期
  • 観光庁「令和7年版観光白書」
  • 気象庁「令和7年夏の記録的な高温と7月の少雨の特徴およびその要因等について」
  • 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年7月推計値)」
  • 総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年平均結果」
  • 帝国データバンク 猛暑の家計消費への影響試算(2026年8月25日)
  • 日本インフォメーション「『夏』に関する意識調査2026」
  • ロッテ「夏の長期化と暑さによる行動変化に関する実態調査」(2026年6月26日)
  • JTB「2026年夏休み(7月15日〜8月31日)の旅行動向」