前回は、ガソリン補助の出口について取り上げました。家計への配慮をしながら、補助を段階的に縮小していくのはやむを得ない、という内容でした。
では、そもそもなぜ日本は、これほど補助に頼らざるを得ないのでしょうか。今回は、その背景にあるエネルギーの調達と、電力のつくり方について考えてみます。
きっかけは、日本経済新聞のコラム「大機小機」の「エネルギー戦略の再構築を」です。問題点の整理にはうなずきましたが、「わが国のエネルギー戦略を見直すべきである」という結びを読んで、私が知りたいのは、その先だと感じました。
同じく日経の11月2日付1面には、「原発建設、世界で急増」という記事も載っています。燃料の輸入をめぐる不安と、世界で進む原発建設。この二つを合わせると、日本が何を進めるべきかを、もう少し具体的に考えられそうです。
何を、いつまでに、どう実行するのか。そして、その費用を誰が負担するのか。「見直すべき」という指摘に続く、この道筋を知りたいと思います。
備蓄と補助でしのいだ先に、何を用意するか
ホルムズ海峡の封鎖は、石油やLNG(液化天然ガス)の供給に大きな影響を与えています。
それでも、原油価格の上昇幅は過去の石油危機と比べて抑えられている、とコラムは指摘しています。産油国による迂回輸送、消費国による備蓄や在庫の取り崩し、消費の減少などが、その背景にあります。
日本でも、備蓄に加え、石油以外のエネルギー源への分散や、価格上昇を抑える補助が、暮らしや経済活動を支えてきました。これまでの備えと危機対応が、役割を果たしているということです。

ただ、備蓄を取り崩し、補助を追加し続ける対応には限りがあります。政府は10月30日、燃料油の補助事業に約1兆1,459億円を追加することを閣議決定しました。前回の記事でも触れたとおり、支援を維持するには、さらに多くの公的資金が必要になっています。
危機をしのげている間に、その後の供給をどう安定させるか。価格が落ち着くのを待つだけでなく、平時の仕組みを変えていくことが必要です。
中東依存9割超を、怠慢だけで説明できるのか
日本の原油輸入は、その9割以上を中東に依存しています。供給元と輸送経路が集中していることは、危機の際の弱点になります。
一方で、ここまで依存度が高まった経緯も、見ておきたいと思います。

日本は、1970年代の2度の石油危機を受け、調達先の分散を進めてきました。中国やインドネシアからの輸入が増え、1987年度の中東依存度は67.9%まで下がっています。
ところが、その後は中国や東南アジアの産油国で国内の石油需要が増え、日本向けの輸出が減りました。その結果、日本の中東依存度は再び上昇しました。過去に分散を図った取り組みが、調達先の事情の変化によって続けにくくなった面があります。
中東には原油の埋蔵量が多く、日本を含むアジア向けには輸送距離の面でも利点があります。企業は、こうした条件の中で、少しでも安く、安定して燃料を届けようとしてきたはずです。
私は、その積み重ねを、危機が起きた後から「分散してこなかったのが悪い」と片づけることには疑問を感じます。
むしろ必要なのは、平時の安さに加えて、供給が途絶えたときの備えにも費用をかけることです。調達先を分散する追加費用を、安全保障のための保険料として、どう負担するか。ここは、民間企業の採算だけに任せず、国の戦略として考えるべきところです。
再エネと原子力を、どう組み合わせるか
国の方向性は、すでに示されています。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成について、次の見通しを示しました。
| 電源 | 2040年度の構成比の見通し |
|---|---|
| 再生可能エネルギー | 4〜5割程度 |
| 原子力 | 2割程度 |
| 火力 | 3〜4割程度 |
再エネと原子力をともに最大限活用し、火力なども組み合わせて供給を確保する方向です。私は、使える電源を組み合わせるという考え方は現実的だと思います。

再エネは、燃料輸入への依存を減らし、脱炭素にも役立つ国内の電源です。ただ、太陽光や風力を増やすには、天候による発電量の変動への対応や、電気を運ぶ送電網、蓄電なども考えなければなりません。
その費用が電気料金にどう反映されるかは、家計にとっても産業にとっても重要です。再エネの普及を支える家計の負担として、前回取り上げた再エネ賦課金もあります。発電所だけの費用ではなく、安定して電気を届けるための仕組み全体で、費用と効果を確かめる必要があります。
原子力にも、核燃料の調達、安全対策、廃炉、使用済み核燃料の処分などの課題があります。電源を選ぶ際には、こうした費用も含めて比較することになります。
また、ここで整理しておきたいのは、原油の調達と電力の構成は、対策が重なる部分もあれば、異なる部分もあるということです。原発の活用は発電用の輸入燃料を減らす方向に働きますが、車のガソリンや産業用の原料を、そのまま置き換えるものではありません。
電力は電源の組み合わせを整え、石油は調達先の分散や省エネ、可能な用途での電化を進める。それぞれの対策をつなげて考えることが、エネルギー戦略には求められます。
世界で進む原発建設と、日本の技術・人材
11月2日付の日経新聞は、世界で建設中の原発が40年ぶりの高水準になったと報じています。

世界原子力協会の11月2日更新の集計では、建設中の原子炉は世界で80基。そのうち中国が39基で約半数を占め、インドの8基、ロシアの7基が続きます。計画段階でも、中国は41基となっています。
背景には、化石燃料の供給への不安と、AIやデータセンターの普及に伴う電力需要の増加があります。欧州でも、イタリアやスウェーデン、ベルギーなど、原子力を再評価する動きが出ています。
日本も、将来どの電源をどれだけ使うのかを、建設や更新に必要な時間を踏まえて考えなければなりません。
特に気になるのが、技術・人材・部品供給網の維持です。原発は、設計し、建設し、運転し、安全を確かめる仕事を通じて、知識や経験を引き継いでいく分野です。長く新設や更新が止まれば、その担い手を維持することも難しくなります。
必要になってから、技術者や部品の供給先をすぐに増やせるわけではありません。だからこそ、既存の原発の再稼働と、将来の設備更新や次世代炉の開発を、それぞれどの時間軸で進めるかを示してほしいと思います。
安全審査は、時間をかけた長さだけでは評価できない
原発の活用を考えるうえで、安全の確認は欠かせません。福島第1原発事故を経験した日本が、慎重に取り組むことは当然です。
そのうえで、審査に長い年月がかかる現状は、見直す余地があると感じます。

新しい規制基準による審査は、2013年7月に始まりました。九州電力の川内原発1・2号機は、同月の申請から約1年2カ月後の2014年9月に、基本設計を確認する設置変更許可を受けています。詳しい設計の認可や検査などを経て、1号機が再稼働したのは2015年8月でした。
一方、北海道電力の泊原発3号機は、同じ2013年7月に申請し、設置変更許可を受けたのは2025年7月30日です。この段階までに約12年を要しました。審査では、敷地内断層、地震の揺れ、津波、火山など、複数の項目が検討されています。
両者で条件や確認すべき内容は異なります。それでも、これだけ長い期間が必要になった理由は、事業者にも審査する側にも、分かる形で示してほしいところです。
どの論点が残り、何の資料が必要で、次に何を確認するのか。そこが明確になれば、必要な調査と、手戻りを減らせる作業を分けて考えられます。
時間をかけること自体が、安全を高めるわけではありません。何を確かめ、その結果どう安全性が高まったのかで、審査を見ていくべきだと思います。
審査する側の専門人材と体制を整え、事業者も根拠の明確な資料を出す。安全の水準を維持しながら、確認を着実に進めるための改善を求めたいと思います。
浜岡の不正は、現場と経営の関係も問い直した
中部電力の浜岡原発では、審査に使う基準地震動の策定をめぐり、不正が明らかになりました。耐震設計の土台となるデータの扱いをゆがめた、安全の根幹に関わる問題です。
中部電力が9月14日に公表した説明によると、外部弁護士による調査委員会は、経営層が実情を十分に理解せず担当部門を叱責し、それが圧力として作用したことを、不正の一因として指摘しています。会社側の努力では解消できない遅延要因があったことにも触れています。

私は、現場がどのような状況に置かれていたのかも、見ておく必要があると思います。見通しの立ちにくい仕事を抱え、経営から早い結果を求められる。その中で、問題を率直に報告し、必要な時間や人手を求められる組織だったのかが問われます。
同時に、調査では、不正を正当化する独自の理屈や、社内の監視・牽制が機能しなかったことも指摘されました。担当者個人の問題として終わらせず、経営と組織の責任を明らかにする必要があります。
中部電力は浜岡3・4号機の設置変更許可申請などを取り下げ、社長と会長も9月末に辞任しました。不正によって、それまで積み重ねてきた審査と、地域からの信頼が大きく損なわれました。
こうした不正が起きると、追加の確認が必要になり、結果として時間も費用もかかります。原発の活用を進めたいなら、事業者が信頼できる資料を出し、問題を隠さず是正することが、まず必要です。
不正を防ぐ組織と、安全確認を着実に進める審査体制。その両方を整えることが、再稼働への道筋を確かなものにします。
「どう見直すか」を、実行する課題に変える
国の方向性を示したうえで、次に必要なのは、具体的な進め方です。私は、少なくとも次の三つについて、費用と工程が見える説明を求めたいと思います。

調達先の分散を、企業の採算だけに任せない
中東以外からの調達や、安定した長期契約、備蓄の維持には費用がかかります。危機に備えるためにどの程度の追加費用を受け入れ、国と企業、利用者でどう分担するのかを、平時から決めておく必要があります。
安い調達先を選ぶ企業に、危機への備えまで無条件で負わせるのは難しい話です。追加の費用を誰が負担するかまで示してこそ、分散を進める政策になります。
再エネは、供給全体の費用を抑えながら増やす
再エネの比率だけを追うのではなく、送電網や蓄電なども含めた費用を見て、導入の順番を考えたいところです。比較的少ない費用で増やせる場所や設備から進め、家計と産業にどう役立ったかを検証する必要があります。
賦課金の額とともに、支援の終了や費用低減をどう進めるかも示してほしいと思います。国民の負担を増やし続けることを前提にせず、普及と負担軽減を両立させる仕組みを考えるべきです。
原子力は、安全確認と人材の確保を計画的に進める
原発ごとに、審査で残る論点と、安全対策工事、地域への説明などの工程を明らかにする。事業者と審査する側の体制を整え、手戻りを減らしていくことが必要です。
また、既存設備の再稼働に加え、設備更新や次世代炉の開発をどう進めるかも、技術・人材の維持と一体で考えなければなりません。廃炉や使用済み核燃料の処分に必要な費用と取り組みも含め、長い時間軸で道筋を示すべきだと思います。
求めたいのは、方針を繰り返すことだけでなく、実行のための説明です。担当する主体、費用負担、工程、そして進み具合を確かめられるようにしてほしいと思います。
まとめ――必要なのは、方針の先にある道筋
日本のエネルギーを組み直す必要性は、すでに指摘されています。再エネと原子力を活用するという国の方向も示されました。

次に知りたいのは、その実現までの道筋です。調達先を分散する費用をどう負担し、電源全体の費用をどう抑え、安全を確認しながら設備と人材をどう確保するのか。ここまで示されてこそ、家計にも企業にも、将来に向けた判断材料になります。
家計では、電気代やガソリン代を、価格が変わりうる日々の生活費として見ておきたいところです。契約や使用量を確認し、補助が縮小した場合の支出も見積もっておくことが備えになります。
危機が起きてから負担を抑える支援と、危機に強い供給の仕組みをつくること。その両方を進めるために、「見直すべき」の先を、具体的な工程として示してほしいと思います。
参考資料
- 日本経済新聞、2026年10月30日、大機小機「エネルギー戦略の再構築を」
- 日本経済新聞、2026年11月2日「原発建設、世界で急増」
- 世界原子力協会「Plans For New Reactors Worldwide」(2026年11月2日更新の国別集計)
- 資源エネルギー庁「第1章 第3節 一次エネルギーの動向|エネルギー動向(2025年6月版)」
- 資源エネルギー庁「日本のエネルギーと中東諸国〜安定供給に向けた国際的な取り組み」
- 資源エネルギー庁「大きく変化する世界で、日本のエネルギーをどうする?『エネルギー基本計画』最新版を読みとく(後編)」
- 原子力規制委員会「九州電力川内原子力発電所」(審査の経緯)
- 九州電力「当社原子力発電所再稼働に向けた取組み」(川内1号機の再稼働の経緯)
- 北海道電力「泊発電所の安全対策等について」(設置変更許可と審査項目)
- 中部電力、2026年9月14日「浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に係る不適切事案の調査報告書に関する記者会見」
- 中部電力「浜岡原子力発電所に関する不適切事案について」(申請取下げなどの経緯)
- 財務省、2026年10月30日「令和8年度一般会計中東情勢等対応予備費使用」
※制度や数値は2026年11月3日時点で確認した情報に基づきます。世界の原子炉数は世界原子力協会の2026年11月2日更新の集計を用い、建設中には建設を中断している炉も含みます。2040年度の電源構成は政府の見通しです。今後の政策や事業計画は変更されることがあります。