ブログ一覧へ戻る

退職金は、一時金と年金のどちらで受け取ると有利なのでしょうか。

モデルケースで計算したところ、額面と手取りで結果が入れ替わりました。

前回の記事では、受取総額が多い方法を選んでも、税金や社会保険料を差し引いた手取りまで多くなるとは限らないとお伝えしました。

今回は、独自に設定した夫婦のモデルケースを使い、一時金と年金の受け取りを比較します。

結論から言うと、今回の試算では、年金受取の額面は一時金より約204万円多くなりました。しかし、税金や社会保険料を含めて比べると、世帯の手取りは一時金の方が約137万円多くなる結果となりました。

額面では年金が204万円多いが、税金と社会保険料が340万円増え、手取りは一時金が137万円多くなることを示す図
税金・保険料の差額を退職金の受取額に反映した、実質的な手取りイメージです。両案に共通する給与や公的年金などは含めていません。

なぜ、このような逆転が起きるのでしょうか。

今回のモデルケース

今回の試算では、次のような夫婦を想定しました。

夫60歳、妻57歳、退職金1800万円、勤続35年、再雇用収入と公的年金など、試算の主な前提条件をまとめた図
夫60歳・妻57歳の夫婦を想定して計算しました。

画像では主な条件を示しています。計算に用いた詳しい条件は、次の表のとおりです。

項目試算条件
60歳で定年、勤続35年
57歳、就労収入なし
退職金1,800万円
一時金の場合60歳時に1,800万円を一括受取
年金の場合年2.0%の年金換算利率で、10年間の確定年金として受取
夫の再雇用60〜64歳、給与収入は年300万円
夫の公的年金65歳から年200万円
妻の公的年金65歳から老齢基礎年金を満額受給
健康保険64歳までは協会けんぽ、65歳から夫婦とも福岡市の国民健康保険
比較期間夫が60歳から70歳になるまで

実際の相談では、勤務先の制度で組み合わせが認められていれば、退職所得控除の範囲を目安に一時金で受け取り、控除を超える部分も一時金で受け取るか、年金に回すかを比較するケースが多くあります。今回は、受け取り方による違いを分かりやすくするため、あえて「全額一時金」と「全額年金」という両端のケースを比較します。

比較を分かりやすくするため、iDeCo、企業型確定拠出年金、ほかの退職金、生命保険料控除や医療費控除などは含めていません。

また、2026年度の税制と福岡市の保険料率が、その後も変わらないものとして計算しています。実際には制度改正や保険料率の変更があるため、今回の数字はあくまで比較のための概算です。

年金受取は、年2.0%で計算する

年金で受け取る場合は、退職金1,800万円を年2.0%で10年間の確定年金として受け取る想定にしました。

ここで使う2.0%は、個人が行う投資の運用利回りではありません。企業年金が給付額を計算するときに使う「予定利率」などを参考に置いた年金換算利率です。

厚生労働省の資料では、確定給付企業年金の令和4年度の平均予定利率は2.06%です。今回は、この水準を参考に年2.0%としました。

この条件で計算すると、年金額は年約200万4,000円、10年間の受取総額は約2,004万円になります。

退職金1800万円を年2.0パーセントで10年間受け取り、年約200万4千円、総額約2004万円になる計算を示す図
年2.0%の年金換算利率で、10年間の確定年金として試算しました。

額面だけを見ると、年金の方が明らかに有利に見えます。

実際の制度では、年金換算利率、受取期間、支払回数、終身年金を選べるかどうかなどが勤務先によって異なります。まずは勤務先の制度説明書で、自分が選べる条件を確認する必要があります。

額面で約204万円多くても、手取りは約137万円少なくなった

次に、夫が60歳から70歳になるまでの世帯収入について、所得税、住民税、国民健康保険料、介護保険料を概算しました。

一時金と年金で共通する再雇用中の社会保険料は、比較差に影響しないため、次の表では省いています。

年金受取では額面が204万円増える一方、税金と保険料が340万円増え、手取りが137万円減ることを示す図
まず全体像を確認し、下の表で負担増の内訳を見ていきます。
年金受取による主な増減一時金との差
退職金の額面約204万円増える
所得税約50万円増える
住民税約133万円増える
国民健康保険料約102万円増える
介護保険料約55万円増える
税金・保険料の増加合計約340万円
世帯の概算手取り約137万円少なくなる

額面は約204万円増えましたが、税金・保険料が約340万円増えたため、今回のモデルでは一時金の方が約137万円多く残りました。

これは「年金受取は損だ」という結論ではありません。今回の条件では、このような結果になったという一例です。

なぜ手取りが逆転したのか

一時金で受け取る退職金は、税制上「退職所得」として扱われます。

勤続35年の場合、退職所得控除は1,850万円です。今回の退職金1,800万円は控除の範囲内に収まるため、退職金に所得税・住民税はかかりません。また、退職所得は原則として国民健康保険料や介護保険料の算定対象にもなりません。

一時金は退職所得控除の範囲内で税負担がほぼなく、年金は給与や公的年金と合算され毎年の税金と保険料に影響することを示す図
一時金と年金では、所得の扱いと毎年の負担が異なります。

一方、企業年金として受け取るお金は、公的年金等に係る雑所得として扱われます。

60歳から64歳までは、再雇用の給与に企業年金が加わります。65歳以降は、公的年金に企業年金が加わります。そのため、毎年の所得が増え、所得税や住民税だけでなく、翌年度の国民健康保険料や介護保険料にも影響します。

特に注意したいのは、住民税や保険料には前年の所得が反映されることです。

今回の比較では、企業年金の受け取りが終わった翌年まで負担の影響を確認するため、夫が70歳になる年まで計算しました。

なお、国民健康保険料と介護保険料は、お住まいの自治体によって金額が変わります。今回は福岡市の料率で計算していますが、地域によって差が出る点にはご注意ください。

妻の介護保険料にも影響が及ぶ場合がある

今回は、夫だけでなく妻を含む世帯全体で試算しました。

福岡市の65歳以上の介護保険料は、本人の所得だけでなく、世帯に市民税が課税されている人がいるかどうかによっても段階が変わります。

そのため、夫が企業年金を受け取って課税所得が増えると、夫自身の介護保険料だけでなく、妻が65歳になった後の介護保険料にも影響する場合があります。

夫の収入や企業年金が増えることで、夫婦それぞれの介護保険料に影響する場合があることを示す図
介護保険料は、本人だけでなく世帯の課税状況も判断材料になります。

退職金は夫が長年働いて得たお金であっても、受け取り方の影響は夫一人だけにとどまらないことがあります。だからこそ、夫婦を含む世帯全体で確認する必要があります。

相談では、世帯全体のお金が共有されていないこともある

実際のご相談では、ご夫婦のどちらか一方だけが来られることも多く、世帯全体のお金が完全に共有されていないケースもあります。

妻が家計管理をしている場合は、夫の退職金額まで把握して相談に来られることが比較的多いと感じます。一方、夫が家計を管理し、自分の退職金について一人で判断している場合もあります。

また、夫婦関係やそれぞれの考え方によって、預貯金や資産の全額を互いに公開していないご家庭もあります。

夫婦がそれぞれ管理する資産と、老後生活に必要な世帯の家計情報を共有するイメージ
すべてを公開しなくても、老後設計に必要な情報は共有しておきたいところです。

もちろん、すべてのお金の使い道まで管理し合う必要はありません。ただ、退職金の受け取り方は、その後の生活費、公的年金、住宅費、介護への備えに関わります。少なくとも老後生活に必要な情報は、夫婦で共有しておいた方が安心です。

FPへ相談に来られる方は、家計管理や将来のお金への意識が比較的高い傾向があります。それでも、勤務先から示された受取総額を見て年金を選び、税金や社会保険料まで通して確認していなかったということはあります。

手取りが少なくても、年金を選ぶ理由はある

今回の試算では、一時金の方が手取りは多くなりました。

それでも、年金受取がその人に合う場合はあります。

たとえば、まとまった一時金を受け取ると使いすぎてしまう心配がある方にとって、毎年決まった金額が入る仕組みは安心につながります。

年金を定期収入として受け取ることで、安心と管理のしやすさを得られることを示す図
手取り額だけでなく、自分で管理しやすい受け取り方かどうかも大切です。

勤務先から年金受取を勧められ、そのまま選ぶ方もいます。また、税金や保険料までは確認せず、額面の受取総額が多いことを理由に選ぶ方もいます。

大切なのは、会社から勧められたから、額面が多いから、一時金の方が手取りが多いからという一つの理由だけで決めないことです。

  • 一時金を自分で管理できるか
  • 毎年の生活費はいくら必要か
  • 住宅ローンやリフォームなど、まとまった支出があるか
  • 定期収入がある安心をどのくらい重視するか

こうしたことまで含めて考えると、手取りが多少少なくても、あえて年金を選ぶ判断には合理性があります。

退職金の受け取り方は、ライフプランと一緒に考える

退職金の受け取り方と、その後の生活は密接につながっています。

税金と社会保険料だけを正確に計算しても、いつ、何に、いくら必要になるかが分からなければ、自分に合う受け取り方は決められません。

一時金を住宅ローンの返済に使うのか。生活防衛資金として残すのか。年金で毎年の生活費を補うのか。夫婦の公的年金だけで不足する金額はいくらなのか。

退職後の仕事、住まい、年金、医療、介護、家族との予定を時間軸で整理するライフプランの図
受け取り方は、これからのお金をいつ、いくら使うかと一緒に考えます。

詳しい判断が必要な場合、私はライフプランを作り、退職後の収入、支出、資産残高を時間軸で確認しています。

手取りの多さは大切です。しかし、最終的に見るべきなのは、受け取った後の生活が安定するかどうかです。

まとめ:額面、手取り、使い方の三つで判断する

今回の試算では、退職金を年金で受け取ると、額面は一時金より約204万円多くなりました。

一方、税金や国民健康保険料、介護保険料の増加を含めると、世帯の概算手取りは一時金の方が約137万円多くなりました。

ただし、この結果だけを見て、全員が一時金を選べばよいわけではありません。

退職金は、次の三つを分けて確認することが大切です。

  • 額面では、いくら受け取れるのか
  • 税金や社会保険料を引いた手取りは、いくらになるのか
  • 受け取った後、自分や家族が管理しやすい方法はどれか
退職金を額面、手取り、受け取った後の使い方という三つの視点で判断する図
受取総額だけではなく、手取りとその後の使い方まで確認します。

退職金は、長年働いてきた結果として受け取る大切なお金です。目先の受取総額だけでなく、夫婦の生活と将来の支出まで含めて、自分に合う受け取り方を考えてください。

次回は、一時金が税制上どのように扱われるのか、退職所得控除と2分の1課税の仕組みを分かりやすく整理します。

前の記事:
退職金は、受け取り方で手取りが変わる

参考資料

※本記事の試算は、一般的な仕組みを分かりやすく示すためのモデルケースです。個別の税額や保険料、受取額を保証するものではありません。実際の受取条件は勤務先の制度によって異なり、税制や社会保険制度も変更される場合があります。ご自身の判断にあたっては勤務先の制度をご確認のうえ、必要に応じて税務署、自治体、税理士などの専門家へご相談ください。