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退職金、企業年金、iDeCoは、案内の時期も窓口も異なります。

しかし、受け取るときは別々に決めず、全体を一つにして考えることが大切です。

退職の時期が近づくと、勤務先から退職金や企業年金の案内が届きます。

一方、iDeCoに加入している方には、金融機関から受け取りに関する案内が届きます。

案内される時期や手続きの窓口が異なるため、一つずつ個別に決めてしまいがちです。

しかし、これらは受け取る時期や順番によって、退職所得控除の計算に影響することがあります。

大切なのは、制度の名前を覚えることではありません。自分には退職時に受け取るお金がいくつあり、それぞれ何歳から受け取れ、どの期間を基に計算されているのかを、最初に整理することです。

退職時に受け取るお金は、一つとは限らない

退職時に受け取るお金は、大きく次の三つに整理できます。

種類簡単な説明
会社の退職一時金会社から直接受け取る退職金
確定給付企業年金(DB)将来の給付額があらかじめ決められている企業年金
確定拠出年金決められた掛金を自分で運用し、その結果によって受取額が変わる年金。企業型DCと個人型のiDeCoがある
退職一時金、企業年金、企業型DCとiDeCoの三つを示す図
この三つのうち、どれがいくつあるかは勤務先によって異なります。

受取方法は制度によって異なり、一時金、年金、両方の組み合わせから選べる場合があります。ただし、すべての勤務先で同じ選択ができるわけではありません。

一時金と年金の基本的な違いについては、以前の記事「退職金は、受け取り方で手取りが変わる」で説明しています。実際に手取りがどれくらい変わるかは、モデルケースで比べた記事「額面は年金が多いのに、手取りは一時金が多かった」で示しています。

今回は、どの受取方法が有利かを改めて比較するのではなく、複数の制度をどのように整理すればよいかを考えます。

確定拠出年金には、企業型DCとiDeCoがある

企業型DCとiDeCoは、名前が違うため別々の制度に見えますが、どちらも確定拠出年金です。

会社を通して加入するのが企業型DC、自分で加入する個人型がiDeCoです。

種類掛金と管理の基本
企業型DC勤務先が制度を設け、原則として会社が掛金を拠出する。勤務先の規約によっては、本人も掛金を上乗せできる
個人型のiDeCo個人が金融機関を選び、基本的に自分で掛金を拠出する

企業型DCで本人が掛金を上乗せする仕組みを「マッチング拠出」といいます。利用できるかどうかは勤務先の制度によって異なり、マッチング拠出を選んだ場合はiDeCoと同時に掛金を拠出することはできません。

どちらも自分で運用商品を選びます。条件を満たせば両方に加入でき、転職時には企業型DCの資産を転職先の企業型DCやiDeCoへ移せる場合があります。

企業型DCとiDeCoはいずれも確定拠出年金であることを示す図
違いは加入の入り口で、掛金を拠出した期間の扱いは共通です。

細かな条件まで覚える必要はありません。自分に企業型DCがあるか、転職時に資産を移しているか、今もiDeCoに加入しているか。この三点を確認できれば、受け取り方を考える準備としては十分です。

まず、四つの項目を一枚に並べる

退職金や企業年金の案内が届いたら、制度ごとに次の項目を書き出してみてください。

確認すること内容
制度名退職一時金、確定給付企業年金(DB)、企業型DC、iDeCoなど
受取見込額一時金と年金で、それぞれいくらになるか
受取可能時期何歳から受け取れ、いつまでに決める必要があるか
計算の基となる期間会社の勤続年数、企業年金の加入期間、または掛金を拠出した期間
制度名、受取見込額、受取可能時期、基になる期間の四項目
金額だけでなく、時期と期間まで書き出すのがポイントです。

同じ会社に長く勤めていても、退職一時金と企業年金で対象期間が異なることがあります。転職時に企業型DCの資産をiDeCoへ移している方もいます。

勤務先の資料とiDeCoの通知を別々に見るのではなく、一枚に並べることで、受取時期の重なりや確認漏れが見つけやすくなります。

会社の退職金は勤続年数、確定拠出年金は掛金を拠出した期間が基になる

退職金を一時金で受け取ると、原則として退職所得として扱われ、退職所得控除を利用できます。

ただし、控除額の計算に使う期間は、すべて同じではありません。

会社の退職金は、原則として、その退職金の基となる勤続年数で計算します。

確定給付企業年金(DB)の一時金は、その給付額の計算の基になった加入期間などを基に考えます。

一方、企業型DCやiDeCoの一時金は、原則として掛金を拠出した加入者期間を基に計算します。掛金を止め、運用指図者として運用だけを続けた期間は、ここには含まれません。

会社の退職金は勤続年数、企業型DCとiDeCoは掛金期間を基にする図
同じ退職所得控除でも、計算の基になる期間が異なります。

退職所得控除の計算方法については、前回の記事「退職所得控除を超えたらどうする? 一時金と年金、どちらが得か」で詳しく説明しています。

今回、理解しておきたいのは、会社の退職金と確定拠出年金が別の仕組みであっても、勤続期間と掛金を拠出した期間が重なっていれば、退職所得控除の計算では互いに影響する場合があるということです。

なぜ、期間が重なると控除が調整されるのか

退職所得控除は、商品ごとに与えられる非課税枠ではありません。

長年働いたことへの報償や、退職後の生活資金として受け取るお金であることに配慮し、税負担を軽くする制度です。

仮に、同じ20年間について、会社の退職金と確定拠出年金の一時金で、それぞれ20年分の退職所得控除を満額使えると、同じ期間に対して控除を二重に利用することになります。

そのため、過去に受け取った退職金等と期間が重なる場合は、重複する期間を退職所得控除の計算から除く仕組みがあります。

退職金と企業型DCやiDeCoで同じ期間の控除を二重利用できないことを示す図
重なっている期間は、あとから受け取る側の計算から除かれます。

複雑に見える制度ですが、考え方の基本は「同じ期間について、控除を二重に使わない」ということです。

受け取る順番によって、確認される期間が変わる

ここからは、複数の一時金を異なる年に受け取る場合の話です。

これまでは、確定拠出年金の一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、会社の退職金を受け取る年の前年以前4年内に受け取った一時金が調整対象でした。

そのため、例えば企業型DCを60歳、会社の退職金を65歳で受け取るなど、受取年を5年空けることで、退職所得控除の重複調整を避けられる場合がありました。これが、いわゆる「5年ルール」です。

このルールの対象となる確定拠出年金の一時金には、iDeCoだけでなく、企業型DCの老齢一時金も含まれます。

しかし、2026年1月1日以後に確定拠出年金の一時金を受け取る場合は、確認される期間が前年以前9年内へ延長されました。一般に「10年ルール」と呼ばれる改正です。

これにより、勤続期間と掛金を拠出した期間が重なっている場合は、60歳で確定拠出年金の一時金を受け取り、65歳で会社の退職金を受け取っても、5年空けるだけでは重複調整を避けられなくなりました。

確定拠出年金と退職金の受取順序で10年と19年の確認期間が変わる図
先に確定拠出年金なら9年内、先に退職金なら19年内がさかのぼって確認されます。この年数は暦上の単純な年齢差ではなく、税務上、過去の一時金との重複を確認する期間を表しています。

この例が当てはまりやすいのは、企業型DCを60歳で受け取れる一方、会社の退職金は65歳で受け取るような場合です。

厚生労働省の調査では、定年を60歳とする企業が62.2%で最も多くなっています(令和7年6月1日現在)。60歳定年の会社では、会社の退職金も60歳で支給されることが多いため、「確定拠出年金を60歳、会社の退職金を65歳」という形に当てはまらない方も多いと考えられます。ただし、実際の支給時期は勤務先の制度によって異なります。

会社の退職金を先に受け取り、その後に確定拠出年金を一時金で受け取る場合は、前年以前19年内に受け取った退職金との重複が確認されます。

そして、iDeCoは原則75歳までに受給を請求する必要があります。60歳で会社の退職金を受け取った場合、iDeCoの受取時期を75歳まで遅らせても15年で、19年には届きません。多くの方にとっては、受取時期を遅らせるだけで重複調整を避けるのは難しい、ということです。

60歳以降もiDeCoを続ける選択肢がある

60歳で会社の退職金や企業年金を受け取った後も、継続勤務して厚生年金に加入していれば、原則として65歳未満までiDeCoの掛金を拠出できます。

企業型DCの老齢給付金を受け取っていても、iDeCoの老齢給付金をまだ受け取っておらず、加入条件を満たしていれば、iDeCoを続けることができます。ただし、iDeCoの老齢給付金を一度受け取ると、再加入して掛金を拠出することはできません。

なお、老齢基礎年金や老齢厚生年金を65歳前に繰り上げて受け取っている場合は、他の条件を満たしていてもiDeCoに加入できません。

以下は、条件を単純化した計算例です。

例えば、60歳を過ぎてから初めてiDeCoに加入し、65歳まで5年間掛金を拠出したとします。この5年間が会社の退職金の対象期間と重ならなければ、「40万円×5年=200万円」が退職所得控除の目安になります。

ただし、60歳より前から企業型DCやiDeCoで掛金を拠出してきた方は、計算が変わります。掛金を拠出した期間は以前からの通算になり、会社の勤続期間と重なる部分が出てくるためです。

この場合の退職所得控除は、足し算ではなく引き算で計算します。掛金を拠出した期間全体で計算した額から、会社の勤続期間と重なる期間で計算した額を差し引きます。

退職所得控除は、20年を超える部分が1年あたり70万円で計算されます。そのため、掛金を拠出した期間が20年を超え、会社の勤続期間と重なる期間が20年以上の場合は、重複を除いた年数に70万円を掛けた金額が目安になります。重複を除いた期間が5年であれば、「70万円×5年=350万円」です。

60歳以降のiDeCo継続と5年間の退職所得控除の目安を示す図
現行は原則65歳未満まで。2026年12月からは、一定の要件を満たす方について70歳未満まで広がる予定です。

同じ5年でも、上の単純例では、60歳から初めて加入した方は200万円、それ以前から長く続けてきた方は350万円になります。金額が変わるのは、控除の計算に使う期間が違うためです。

ただし、実際の控除額は、先に受け取った退職金の金額、勤続期間と加入期間の重なり方などによって変わります。すべての方が200万円または350万円になるわけではありません。

それでも、掛金を拠出した期間が延びれば、控除の計算に使う期間も延びます。大切なのは、受取時期を遅らせることではなく、掛金を拠出し続けることです。

なお、2026年12月からは、一定の要件を満たす方について、iDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで引き上げられる予定です。60歳以降も働く方にとって、積立期間と受取時期の選択肢はさらに広がります。

すぐに受け取らず、運用を続ける選択肢もある

iDeCoは、受取可能な年齢になっても、すぐに受け取る必要はありません。当面使う予定がなく、運用を続けたい場合は、原則75歳まで運用を続けることも選択肢です。

iDeCoを受け取るか75歳まで運用を続けるか考える図
受け取りを急がず、必要になる時期まで運用を続ける方法もあります。

ただし、運用を続ければ必ず資産が増えるわけではありません。商品によっては価格変動があり、口座管理手数料も続きます。

いつ受け取るかは、残高の多い少ないだけでなく、今後必要になるお金、運用を続ける目的、選んでいる商品を確認したうえで判断することが大切です。

受け取り方を決める前に、勤務先へ確認する

退職金や企業年金の制度は、勤務先によって異なります。

退職直前になって慌てないよう、できれば50代のうちに、勤務先でなければ分からない次の点を確認しておきたいところです。

  • 退職一時金、確定給付企業年金(DB)、企業型DCの有無、受取見込額と計算対象期間
  • 一時金・年金・併用のどれを選べるか、受取可能年齢と選択期限
  • 退職や継続雇用の後、企業型DCやiDeCoを継続・移換できるか
制度の有無、受取額、受取時期、選択期限を勤務先へ確認する図
勤務先でなければ分からない内容は、50代のうちに確認しておきます。

案内を受け取ってから短期間で決めようとすると、税金だけを見て判断したり、勤務先に勧められた方法をそのまま選んだりしがちです。

先に制度の全体像を把握しておけば、必要な確認や試算を落ち着いて進められます。

まとめ:制度ごとではなく、全体を一つにして考える

会社の退職金、確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金は、仕組みや手続きの窓口が異なります。しかし、受け取る側にとっては、すべて退職後の生活を支える大切なお金です。

別々に手続きを進めるのではなく、受取額、受取時期、勤続年数、掛金を拠出した期間を一枚に並べてから判断することが大切です。

退職金、企業年金、企業型DCとiDeCoを一つに整理するまとめ図
制度ごとに決めず、受取額・時期・対象期間をまとめて確認します。

自分にはどの制度があり、対象期間が重なっていないか。60歳以降もiDeCoを続けられるか。いつ、どのお金が必要になるのか。この順番で確認すれば、自分に合った受取計画を考えやすくなります。

次回は、年金形式で受け取る場合に、受取時期や金額をどのように考えればよいのかを整理します。

次の記事:
企業年金はいつ受け取る?働きながら受け取る選択肢もある

前の記事:
退職所得控除を超えたらどうする? 一時金と年金、どちらが得か

ご自身には、どの制度がありますか

退職金、企業年金、確定拠出年金。どれがあり、いつから受け取れ、どの期間が計算の基になっているのか。一枚に並べるところまでは、ご自身でも進められます。

自分にある退職金や企業年金の制度を確認する夫婦の図
まずは「何があるか、いつ受け取れるか、いくらか、何年分か」を整理します。

将来安心サポートでは、一般的な制度の仕組みを踏まえ、退職後の働き方や公的年金の見込みも含めて、受け取り方を家計全体から整理するお手伝いをしています。

50代からの老後資金、資産運用、人生設計を中心に、ご相談を承っています。

参考資料

※この記事は、一般的な制度の仕組みを説明したものです。実際の退職所得控除や税額は、勤務先の制度、過去の退職金の受取状況、加入期間などによって異なります。具体的な税務判断については、税務署または税理士へご確認ください。