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生命保険の保障額は、毎月払える保険料や、保険会社のモデルプランから決めるものではありません。

「子どもがいるから3,000万円くらい」
「毎月1万円までなら払える」
「保険会社から勧められたプランだから安心」

このような決め方をしている方は、少なくないと思います。

相談の現場でも、保険会社が用意した年齢別のモデルプランをもとに、毎月払える保険料の範囲で契約しているケースを多く見てきました。

しかし、同じ年齢や年収でも、子どもの人数、配偶者の収入、貯蓄、住宅ローン、勤務先の制度によって、必要な保障額は大きく変わります。

以前の記事では、保険は、起きたときに家計だけでは対応できないリスクに備え、公的保障や貯蓄で足りない部分だけを補うという基本を説明しました。

今回は、その考え方を一歩進め、架空のモデル世帯を使って、死亡保障の不足額がどのように決まるのかを確認します。

関連記事:保険の払いすぎに注意!FPが教える「正しい保険の入り方」3つの原則

死亡・病気・就業不能は分けて考える

保険を考えるときは、最初に「何が起きた場合に備えるのか」を決める必要があります。

世帯の働き手が亡くなった場合。
病気やけがで入院した場合。
長期間、働けなくなった場合。

死亡、病気、就業不能を分けて考える図
リスクごとに必要なお金と利用できる制度が異なります。

死亡時には遺族年金、病気や休職時には高額療養費や傷病手当金などを確認します。すべてを一つの「不安」としてまとめると、必要のない保障まで増やしやすくなります。

今回は、世帯の主な働き手が亡くなった場合の死亡保障に絞ります。

必要保障額は、一つの引き算で考える

死亡保障の考え方は、複雑に見えても基本は一つの引き算です。

遺族に今後必要となるお金 - 遺族が受け取れるお金・すでに保有しているお金 = 保険で補う不足額

遺族に必要となるお金には、生活費、教育費、住居費、葬儀や当面の整理資金などがあります。

必要なお金から公的保障や貯蓄を差し引いて不足額を求める図
商品を選ぶ前に、まず家計の不足額を計算します。

そこから、遺族年金、児童手当、配偶者の収入、勤務先の死亡退職金、貯蓄、団体信用生命保険などで対応できる金額を差し引きます。

この順番で計算すると、保険会社から先に商品を提案されなくても、家計に必要な保障額を考えられます。

モデル世帯の条件

今回は、2026年時点で夫が亡くなったものとして、次の架空の家族を設定します。

項目条件
40歳、会社員、額面年収600万円
38歳、夫の死亡後の手取り収入年120万円
子ども10歳(小学4年生)と7歳(小学1年生)の2人
生活費住宅ローン返済額と教育費を除き、年間300万円
住宅住宅ローンあり。団体信用生命保険に加入
預貯金500万円。ただし200万円は生活防衛資金として残す
勤務先死亡退職金300万円と仮定
教育方針高校まで公立、大学は私立を想定
夫婦と子ども2人のモデル世帯の条件を示す図
家族構成や収入、貯蓄、住宅によって必要保障額は変わります。

夫は厚生年金に加入中に亡くなり、遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給要件を満たす前提です。

夫の年収は、遺族厚生年金を概算するための税金・社会保険料控除前の額面額です。一方、妻の収入は、夫の死亡後に妻自身が負担する税金や社会保険料を差し引いた後、実際に生活費へ回せる手取り額として計算します。住民税が非課税となる場合でも、健康保険料や年金保険料の負担がなくなるとは限らないためです。

妻は20歳から60歳まで国民年金の加入期間を満たし、65歳から満額の老齢基礎年金を受け取る前提です。妻自身の老齢厚生年金は比較的少額で、65歳以降の厚生年金部分は、妻自身の老齢厚生年金と調整後の遺族厚生年金を合わせて年約61万7,000円になるケースを仮定します。年金額は将来の改定を予測せず、令和8年度額を現在価値として使います。

遺族厚生年金は2028年4月に制度改正が予定されていますが、このモデルは2026年に受給権が発生するため、既受給者として現在の給付が維持される前提です。ただし、2038年頃に子どもが遺族基礎年金の対象外となり、中高齢寡婦加算が始まる部分について、本試算では段階的な縮小を反映していません。実際の加算額は、本試算より少なくなる可能性があります。

預貯金は、統計の平均値をそのまま使っていません。総務省の2025年家計調査では、世帯主が40~49歳の二人以上世帯の貯蓄現在高は平均1,381万円です。しかし、この金額には預貯金だけでなく、生命保険や有価証券なども含まれ、死亡直後にすべて使えるとは限りません。

そこで今回は、モデル世帯が保有する預貯金を500万円とし、そのうち生活防衛資金200万円を残した300万円だけを、死亡後の生活に使えるお金として計算します。死亡退職金も会社によって異なるため、全国平均ではなく、記事用の仮定として300万円を置きます。

遺族に必要となるお金を積み上げる

このモデルでは、遺族に必要となるお金を次のように概算します。

必要となるお金概算額考え方
子どもが独立するまでの生活費約3,150万円現在の生活費の70%を15年間
子ども独立後の妻の生活費約5,550万円現在の生活費の50%を妻90歳まで
子ども2人の教育費約1,974万円高校まで公立、大学は私立を想定
葬儀・整理資金200万円仮定額
合計約1億874万円
遺族の生活費、教育費、葬儀整理資金の合計を示す図
必要額は生活費だけでなく、教育費や整理資金も積み上げます。

本人が亡くなれば、本人分の食費や日用品費などは減ります。そのため、現在の生活費をそのまま将来年数分掛けるのではなく、子どもが独立するまでは70%、独立後の妻の生活費は50%として概算しています。

教育費は、文部科学省の「子供の学習費調査」と私立大学の学生納付金調査をもとに、現在の年齢から高校・大学を卒業するまでの金額を計算しています。高校までの金額には、学校教育費のほか、塾や部活動などの学校外活動費も含まれます。一方、大学進学後の自宅外通学に伴う家賃や仕送りは含めていません。

教育段階ごとの内訳は、次のとおりです。

子ども公立小学校公立中学校公立高校私立大学合計
上の子(10歳)約110万円約163万円約179万円約480万円約932万円
下の子(7歳)約220万円約163万円約179万円約480万円約1,042万円
合計約330万円約325万円約358万円約961万円約1,974万円

※金額は万円未満を四捨五入しているため、内訳の合計と各段階の合計が一致しない場合があります。

住宅ローンは、夫の死亡時に団体信用生命保険が適用される前提です。そのため、ローン返済額は死亡後の支出に含めていません。団体信用生命保険に加入していない場合や、賃貸住宅で今後も家賃が必要な場合は、必要保障額が大きく変わります。

公的保障、勤務先の制度、貯蓄を差し引く

次に、遺族が受け取れるお金と、家計で準備できているお金を確認します。

受け取れる・保有しているお金概算額考え方
妻の就労収入約3,240万円手取り年120万円を65歳まで
遺族基礎年金約1,395万円子ども2人・1人の期間を令和8年度額で計算
遺族厚生年金(65歳まで)約1,665万円夫の報酬と加入期間から概算
中高齢寡婦加算約1,017万円子どもが対象外となった後から妻65歳まで概算
児童手当約228万円2人が高校生年代を終えるまで概算
65歳以降の妻の公的年金約3,660万円65歳から90歳まで概算
使用できる預貯金300万円生活防衛資金200万円を除く
勤務先の死亡退職金300万円仮定額
合計約1億1,805万円
妻の収入、遺族年金、児童手当、預貯金、死亡退職金を差し引く図
足りない額は、必要額そのものではなく、差し引いた後に残る額です。

公的年金だけを年代別に見ると、次のようになります。金額は令和8年度額を使った、税金や保険料を差し引く前の制度上の支給額です。

妻の年齢家族の状況公的年金の年額
約38~46歳対象となる子どもが2人約195万2,000円
約46~49歳対象となる子どもが1人約170万8,000円
約49~65歳子どもが遺族基礎年金の対象外約125万2,000円
65~90歳妻の老齢基礎年金と厚生年金部分約146万4,000円

最初の期間は遺族基礎年金と遺族厚生年金、子どもが対象外となった後は遺族厚生年金と中高齢寡婦加算を受け取る想定です。65歳以降は、妻自身の老齢年金と遺族厚生年金の調整後の金額になります。

令和8年度の遺族基礎年金は、子のある配偶者の場合、年額84万7,300円に子の加算額が加わります。子どもが2人いる間は年額約133万円、1人になった後は年額約109万円です。

児童手当は、3歳から高校生年代までの第1子・第2子が1人につき月1万円です。このモデルでは、10歳の子が約96万円、7歳の子が約132万円、合計約228万円を受け取る前提で計算します。

遺族厚生年金は、亡くなった方の厚生年金加入期間や報酬によって変わります。厚生年金の被保険者である間に亡くなり、加入期間が300月未満の場合は、300月加入したものとみなして計算されます。

このモデルでは、賞与を含む月額換算の平均標準報酬額を50万円と仮定し、次のように概算します。

50万円 × 5.481/1,000 × 300月 × 3/4 = 年約61万7,000円

妻が65歳になると中高齢寡婦加算は終了しますが、遺族厚生年金まで一律に終了するわけではありません。妻自身の老齢基礎年金は遺族厚生年金と併せて受け取れます。妻自身の老齢厚生年金がある場合は、その全額が支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額が支給停止されます。

このモデルでは、妻が満額の老齢基礎年金84万7,300円を受け取ります。さらに、妻自身の老齢厚生年金と調整後の遺族厚生年金を合わせた厚生年金部分を年約61万7,000円とし、65歳以降の公的年金を合計年約146万4,000円と概算します。25年間では約3,660万円です。

公的年金は、子どもの年齢、夫婦それぞれの加入期間や報酬によって結果が変わります。実際の金額は、年金事務所などで確認する必要があります。

また、勤務先の死亡退職金や弔慰金は、会社によって制度も金額も違います。保険を契約する前に、就業規則や福利厚生資料を確認しておきたいところです。

このモデルでは、概算上、必要額を賄える

今回の概算では、次の結果になります。

必要となるお金約1億874万円
妻の収入・公的給付・預貯金など約1億1,805万円
差し引き約930万円上回る
必要額より準備できる金額が約930万円多い試算結果を示す図
このモデルでは、単純計算上、民間保険で補う不足額はありません。

この単純計算では、公的保障、妻の収入、貯蓄、団体信用生命保険などで必要額を賄えるため、民間の死亡保険で補う不足額はありません。

ただし、妻の就労収入は手取り額である一方、公的年金は制度上の支給額で計上しています。遺族年金は非課税ですが、65歳以降に受け取る妻自身の老齢年金にかかる税金や、健康保険料・介護保険料、不測の支出などは詳細に織り込んでいません。そのため、約930万円をそのまま自由に使える余裕資金と捉えることはできません。

公的保障や団体信用生命保険、貯蓄を確認せず、「子どもが2人いるから3,000万円」と決めた場合と比べると、大きな差があります。

ただし、これはすべての40代世帯に当てはまる結論ではありません。

妻が働けない。
子どもが高校までに私立へ進学する。
賃貸住宅で家賃が続く。
貯蓄が少ない。
勤務先に死亡退職金がない。

このような条件であれば、不足額は増えます。反対に、妻の収入や貯蓄が多ければ、不足額はさらに小さくなることもあります。

必要保障額を具体的に考えるには、家計と将来の支出をつないだライフプランが必要です。

実際に必要保障額を計算すると、現在の保障額が想像していた以上に大きかったと気づく方もいます。

不足額が生じた場合は、掛け捨て保険から考える

実際の家計を計算して不足額が残った場合は、保険料の安さや保険会社の提案から商品を選ぶのではなく、何のためのお金が不足しているのかを考えます。まとまった資金が必要なのか、毎月の生活費が不足するのかによって、適した保障の形が変わります。

定期保険と収入保障保険は、どちらも一定期間の死亡保障を準備する掛け捨て型の保険ですが、保障の形が異なります。

死亡保障は、一生同じ金額が必要なわけではありません。子どもの成長とともに残りの生活費や教育費が減り、貯蓄が増えれば、保険で補う不足額も小さくなります。このような不足額の変化に合わせやすいのが収入保障保険です。

定期保険と収入保障保険の保障の違いを示す図
不足するお金の目的に合わせて、保障の形を選びます。
比較項目定期保険収入保障保険
保険金契約期間中は原則として一定契約から時間がたつほど受取総額が減る
受取方法一括で受け取るのが基本毎月など年金形式で受け取るのが基本
向いている備え葬儀費用、教育資金などまとまったお金遺族の毎月の生活費
保険料同じ当初保障額なら比較的高くなりやすい必要保障額の減少に合わせるため抑えやすい

商品名にこだわるより、不足するお金の目的、金額、必要となる期間に合っているかを確認することが大切です。

掛け捨て保険の保険料は、月いくらくらいか

生命保険文化センターの2024年度調査では、2人以上世帯が支払う生命保険料は、個人年金保険を含めて年平均35万3,000円です。月額に直すと約2万9,000円になります。

ただし、これは世帯で加入している死亡保険、医療保険、個人年金保険などを合計した平均です。掛け捨ての死亡保険一つに、月約3万円を払っているという意味ではありません。

実際に公表されている40歳男性の保険料例を見ると、掛け捨ての死亡保険は次の水準です。

保険の種類保障内容の例月額保険料の例
定期保険死亡保障500万円・保険期間10年1,087円
定期保険死亡保障1,000万円・保険期間10年1,925円
定期保険死亡保障2,000万円・保険期間10年3,600円
収入保障保険(非喫煙者優良体)月10万円を65歳まで・最低支払保証期間5年2,003円
定期保険と収入保障保険の月額保険料例を示す図
平均額ではなく、必要な保障だけを準備した場合の保険料を確認します。

収入保障保険の例では、40歳で亡くなると月10万円を65歳まで受け取り、総額は最大3,000万円です。50歳なら1,800万円、60歳なら最低支払保証期間5年分の600万円となります。定期保険は契約期間中の保険金が一定ですが、収入保障保険は死亡時期が遅いほど受取総額が減るため、加入当初の大きな保障を月額2,003円で準備できます。ただし、表は保険会社や保障期間などの条件が異なるため、保険料の水準を知る参考例として見てください。

2人以上世帯の平均である月約2万9,000円を、自分の保険料の目安にする必要はありません。大切なのは、必要な保障だけを掛け捨て保険で補った場合、実際の保険料がいくらになるのかを確認することです。

貯蓄や運用機能を組み合わせた保険が、すべて悪いわけではありません。ただし、保険料が高くなりやすく、途中で解約すると払込保険料を下回ることもあります。仕組みや費用を理解しないまま契約せず、保障と貯蓄・運用を分ける方法とも比較して、慎重に判断してください。

※表は各社が公表している40歳男性の保険料例です。子どもの独立まで備える場合は15年程度が一つの目安となり、実際の保険料は商品、保険期間、健康状態などによって異なります。

既存の保険は、確認せずに解約しない

必要保障額を計算して、現在の保障額が必要額を上回ると分かっても、その場ですぐに解約するのは避けてください。

  • すでに病気があり、新しい保険へ加入できない
  • 解約返戻金が、払込保険料を大きく下回る
  • もう少しで満期や払込満了を迎える
既存の保険を解約する前に健康状態や解約返戻金などを確認する図
保障内容と契約条件を確認してから、既契約を整理します。

既契約には、それぞれ事情があります。

新しい保険へ切り替える場合は、新契約が成立して保障が始まることを確認してから、古い契約を整理します。解約返戻金、満期までの期間、今後の保険料、現在の健康状態を比べ、既契約を残した方がよいケースもあります。

大切なのは、何でも解約することではありません。不要な保障を整理し、今の家計に必要な保障へ整えることです。

生活に余裕がないにもかかわらず、高い保険料を払い続け、その保険料が家計をさらに圧迫している相談も見てきました。

保険は安心のために入るものです。その保険料によって、今の生活が苦しくなっては本末転倒です。

まとめ:保険は、不安の大きさではなく不足額で決める

生命保険の保障額は、毎月払える保険料や、保険会社のモデルプランから決めるものではありません。

  • 遺族に今後必要となるお金を計算する
  • 公的保障、児童手当、勤務先の制度、団体信用生命保険、貯蓄、配偶者の収入を差し引く
  • 最後に残った不足額だけを、民間保険で補う
必要額を計算し公的保障と貯蓄を確認して不足額だけ保険で備える手順
必要保障額は定期的に見直し、今の家計に合わせます。

公的保障や将来の支出まで確認した結果、不足額がなければ、死亡保険で備える必要はありません。

保険料を減らすこと自体が目的ではありません。必要な安心を残しながら、余分な負担を減らすことが目的です。

家族構成や貯蓄が変われば、必要保障額も変わります。一度契約して終わりではなく、結婚、出産、住宅購入、子どもの独立などの節目で見直していきましょう。

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参考資料

※本記事の試算は、制度の考え方を説明するための架空のモデルケースです。物価上昇、税金、社会保険料、不測の支出、2028年4月以降の制度改正の影響などは詳細に織り込んでおらず、将来の受取額や個別世帯の必要保障額を保証するものではありません。実際の遺族年金は加入記録などによって異なるため、日本年金機構などでご確認ください。