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この記事は、私自身のために書き始めたものです。

IDとパスワードは増え続け、意識して管理しなければ、自分でも何がどこにあるのか分からなくなります。その状態で、もし私に何かあったらどうなるか。

ファイナンシャルプランナーとしての仕事、所有している不動産の管理、確定申告、サイトの運営。気がつくと、自分に関わる情報のほとんどがデジタルになっていました。

家族は、私が何を持っていて、何を払い続けているのかさえ分からないでしょう。

デジタル終活というと、家族のためにやる作業だと思われがちです。しかし実際にやってみると、これは自分自身のための作業でもあります。

スマートフォンを手に、銀行・鍵・書類・クラウドなどの情報を整理する人のイラスト
散らばった情報を集めるところからしか、始められません。

本人が把握していないものを、家族が分かるはずがない

私は自治体で、生活にお困りの方の家計改善支援を担当していました。年間100件以上の家計を見てきました。

その中で、相続で困ったという相談はほとんどありませんでした。しかし、別のことがずっと気になっていました。

お金の管理ができていない方は、何が、いくら、どこから引き落とされているのかを、本人が把握していないのです。通帳を見ながら一緒に確認して、初めて「これ、まだ払ってたんですね」と気づく。そういう場面が何度もありました。

長い利用明細を手に、スマートフォンやクレジットカードの引き落としに首をかしげる人のイラスト
引き落としの正体が分からないまま、毎月お金だけが出ていきます。

そのたびに思いました。本人でさえ分からないのだから、この方が亡くなった後、ご家族はもっと大変だろうなと。

もう一つ気づいたことがあります。本当にお金に困っている方は、意外とネット銀行を使っていません。紙の通帳を持っています。それでも、中身をよく分かっていない方はいます。

つまり、これはデジタルかアナログかの問題ではありません。自分の資産と支払いを、自分で把握できているかどうかの問題です。

デジタル化が進んだ分、把握しないまま放置したときの分かりにくさが増した、ということです。

参考までに、スマートフォンでインターネットを利用する人の割合は、60代で79.1%、70代で53.0%、80歳以上でも21.1%となっています(総務省「令和7年通信利用動向調査」)。しかも、この3つの年代はいずれも前年より増えています。高齢だからデジタルとは無縁、という時代ではありません。

なお同じ調査では、60代のパソコン利用は49.6%にとどまります。デジタル情報の入口は、すでにパソコンよりスマートフォンです。

国民生活センターにも、故人のネット銀行の手続きをしたいがスマートフォンが開けず契約先が分からない、サブスクリプションを止めたいがIDとパスワードが分からない、といった相談が寄せられています。

分けるのは「資産」と「支払い」の二つだけ

最初から、すべてのIDとパスワードを書き出そうとすると挫折します。

まずは、利用しているサービスを二つに分けるところから始めます。

資産(銀行預金・証券・暗号資産・ポイント)と支払い(スマホ代・通信費・動画配信・クラウド)を左右に分けた図
迷ったら、お金が入っている側か、出ていく側かで振り分けます。

お金が残っているもの——ネット銀行、ネット証券、FX、暗号資産、電子マネー、スマホ決済の残高、ポイントやマイル。

支払いが続くもの——携帯電話、インターネット回線、クレジットカード、動画や音楽の配信、電子書籍や電子新聞、有料アプリ、クラウドストレージ、ネット通販の有料会員、セキュリティソフト。

資産は、存在が分からなければ相続から漏れます。契約は、本人が亡くなっても自動的には止まりません。

備えるべきは、見つからない資産と、止まらない支払いの二つ。

なお、ポイントは規約上そもそも相続できず、失効するものが多くあります。一方、航空会社のマイルは法定相続人が引き継げます。ただしANAは死亡から6か月以内という期限があり、知らずに過ぎれば失われます。JALには申請期限の定めがありません。同じ「ポイント」でも扱いが違うということです。

不動産を持っている人は、もう一段複雑になる

ここは、私自身が20年間、不動産を保有してきた立場から書きます。

不動産は「見える資産」です。登記されていますし、固定資産税の通知も届きます。だから安心かというと、そうではありません。不動産そのものではなく、不動産を管理するための情報がすべてデジタルになっているのです。

アパートを中心に、確定申告書と電卓・管理アプリ・家賃・火災保険のアイコンを配した図
建物より、それを回すための情報のほうが引き継ぎにくいのです。

私の場合、こうなっています。

管理会社とのやり取りは、ほぼすべて電子データです。専用アプリとメールでのやり取りが中心で、IDとパスワードが分からなければ、入居状況も送金明細も確認できません。

ただし、これは致命的ではありません。私が亡くなった後は、家族が管理会社に直接連絡すれば対応してもらえるはずです。そのかわり、管理会社の名前と連絡先だけは、必ず家族が分かるようにしておく必要があります。アプリの中にしか情報がなければ、連絡先すら分かりません。

一番の問題は、確定申告です。私はe-Taxで申告しているので、帳簿も明細もデータで保存しています。この保存場所が分からなければ、家族は申告ができません。

不動産の場合、亡くなった年の分は準確定申告(相続の開始を知った日の翌日から4か月以内)が必要になり、その後も家賃収入がある限り、相続人が申告を続けることになります。過去の申告内容が分からなければ、減価償却の計算も引き継げません。不動産の相続は、手続きが「終わる」のではなく「続く」のです。

ローンの返済も、実質的にネット銀行と同じです。通帳はありますが、日常の確認はネットで済ませています。紙があるから安心とは言えません。

そのほか、登記関係の書類、売買契約書、火災保険の証券。紙とデータが混在しているものほど、家族は探しにくくなります。

私は、所有しているアパートやマンションを誰に相続させるかを、口頭で家族に伝えて認識させています。ただし口頭では記録に残りません。最終的には遺言書にしておくべきだと考えています。

スマートフォンが開かないと、調べる手掛かりごと失う

今のスマートフォンには、口座も、証券も、決済アプリも、メールも、連絡先も入っています。さらに、金融機関の本人確認に使うSMSも届きます。

ロック画面のスマートフォンの周りに、銀行口座・証券・連絡先・SMSが鍵付きで並ぶ図
止まるのは支払いではなく、調べる作業のほうです。

ロックを解除できないと、家族は契約内容だけでなく、資産を調べる手掛かりまで失います

Appleは、パスコードでロックされた端末について、データを消去せずにロックを解除することはできないと案内しています。家族だから開けてもらえる、とは限りません。

ただし、生前にできる設定があります

Appleには「故人アカウント管理連絡先」という仕組みがあります。生前に家族を指定しておけば、亡くなった後にiCloudのデータへアクセスしてもらえます。Googleにも「アカウント無効化管理ツール」があり、一定期間アカウントが使われなければ、指定した相手に通知を送ったり、データを渡したりできます。

どちらも設定は数分で終わります。この記事に書いたことの中で、いちばんすぐにできる対策です。

一方で、亡くなった後にすぐ携帯電話を解約するのも考えものです。解約するとSMS認証が使えなくなり、各種サービスの確認や手続きに支障が出ることがあります。

家族に伝えておくべきことは、次の2点です。

  • スマートフォンやパソコンをどう確認するか
  • 携帯電話をすぐに解約せず、必要な調査を先に行うこと

生前に解除方法そのものを教えたくない場合は、封をした書面を金庫などに保管し、その場所だけを伝える方法もあります。

死後に調べる制度はあるが、万能ではない

家族が口座の存在を知らなかった場合に備えて、調べる仕組みは用意されています。

2025年4月からは、相続人が金融機関を通じて預金保険機構へ照会する「相続時預貯金口座照会」が始まりました。ただし、次の点は知っておいてください。

項目内容
対象になる口座マイナンバーが紐づけられた(付番済みの)口座に限られる
分かること金融機関名・支店名・預貯金の種類・口座番号。残高は分からない
手数料1件5,060円(税込)。口座が見つからなくても返金されない
申込みの期限死亡から10年以内
預貯金口座が分かるという利点と、残高不明・手数料・10年以内・口座凍結という注意点を並べた図
使えば分かる、というほど単純な制度ではありません。

そして、順番として注意が必要な点があります。この照会を申し込むと、名義人が亡くなったことが各金融機関に伝わるため、口座が凍結される可能性があります。葬儀費用など急いで支払う必要があるお金がある場合は、先に預貯金の仮払い制度が使えるかを確認してから申し込んだほうが安全です。

制度を知っているかどうかより、使う順番を間違えないことのほうが、実務では大事です。

クレジットカードや借入れについては、法定相続人がCIC、JICC、全国銀行個人信用情報センターへ情報開示を申し込める場合があります。ただし、一つの機関ですべてが分かるわけではなく、カードで支払っていた個々のサブスクリプションまでは把握できません。

結局、継続課金を洗い出す一番確実な方法は、銀行口座とクレジットカードの利用明細を見ることです。年に一度だけ更新されるサービスもあるので、直近1〜2か月ではなく、13か月分ほどさかのぼると年払いの契約も拾えます。

これは生前の整理でも同じです。明細を見ながら、定期的に引き落とされているものを書き出す。使っていないものはその場で解約する。契約を減らすこと自体が、最も確実なデジタル終活です。

とはいえ、明細を1件ずつ目で追うのは骨が折れます。私はこの作業を、ほとんど道具に任せています。次に、その中身を書きます。

私は「1か所にまとめる」派です

情報の残し方には、二つの考え方があります。

一つは、分けて保管する考え方です。サービスの一覧と、パスワードなどの秘密情報を別々にしておけば、片方が漏れても被害は限定されます。理屈としては、こちらが安全です。

もう一つは、1か所にまとめる考え方です。私はこちらを選んでいます。

理由は単純です。中途半端に書かれていて、結局また別の資料を探さなければ分からないのなら、その記録に意味がないからです。家族が困っている状況で、あちこち探させることになります。安全でも使われない備えより、機能する備えのほうがよいと考えています。

そのうえで、私が実際にやっていることを書きます。道具は2つ、それに紙が1枚です。順番には意味があります。1Passwordが鍵で、マネーフォワードMEが中身の一覧。鍵が開かなければ、一覧にもたどり着けないからです。

鍵が1Password、金庫の中にマネーフォワードMEの画面と紙のEmergency Kitが入っている図
この3つが揃って、初めて家族の手に渡ります。

入口になるのは、1Passwordです

パスワードを一括管理できるサービスです。有料ですが、私はむしろ有料であることに安心しています。パスワードがなければ何もできない時代に、これほど重要な情報を無料のアプリに預けられるでしょうか。無料のサービスは、何で運営を成り立たせているのか。無料の裏には、必ず何らかのリスクがあると考えたほうがよいと思っています。

今後は、パスワード以外の情報もこの中に入れていき、メインのパスワード一つを伝えれば、家族が全部たどり着ける状態にしていくつもりです。

ただし、ここには落とし穴があります。私も調べて分かったことですが、マスターパスワードだけでは、新しい端末からはログインできません。メールアドレスとシークレットキー(秘密鍵)が必要になります。故人のスマートフォンやパソコンが使えるとは限らない以上、この組み合わせが家族に渡るようにしておかなければ意味がありません。

1Passwordには、この情報をまとめた「Emergency Kit」というPDFがあります。公式にも、これを印刷し、マスターパスワードを書き込んだうえで、信頼できる家族が開けられる金庫などに保管する方法が案内されています。なお、現時点で「死後に家族がアクセスできる」専用の機能は用意されていません。

金融資産の一覧は、マネーフォワードMEです

銀行、証券、クレジットカード、電子マネーなどを連携させておくと、日々の資産が1画面で一覧できます。私の金融資産はこれで全て網羅されているので、このアプリさえ開ければ、資産の把握は一発で終わります。

正直なところ、私もマネーフォワードがなければ、自分の資産の把握で迷子になっていたと思います。口座が増えるほど、頭の中だけでは管理しきれなくなるからです。

金融資産の把握については、これが一番だと考えています。家族にとっても同じことで、口座を一つずつ探し当てるのと、一覧を開くだけで済むのとでは、負担がまるで違います。なお、ここにログインするためのIDとパスワードも、1Passwordの中に入れてあります。

ただし、注意点が3つあります。

  • 家族がログインできなければ意味がありません。つまり、先に書いた1Passwordが開くかどうかが前提になります。
  • 無料版は連携できるのが4件までです(2026年8月時点)。銀行・カード・証券などの合計なので、資産を全部一覧にしたいなら有料版が前提になります。
  • 連携できないものは別に記録が必要です。不動産、個人で管理している暗号資産のウォレット、連携対象外のサブスク、e-Taxの申告データなどは、ここには出てきません。

そして最後に、重要な情報は紙に書き写しています

デジタルに置いたままの情報は、盗まれる可能性が高くなります。いろいろ言ったところで、やはり紙が一番だというのが私の実感です。

しかもこれは、私の感覚だけの話ではありませんでした。先ほどのEmergency Kitも、提供元が勧めている保管方法は「印刷して、金庫のような安全な場所に置く」なのですから。

整理すると、鍵は1Password、資産の一覧はマネーフォワードME、そして最後の保険が紙です。デジタルの情報については、この2つのアプリでほとんど解決できると考えています。あとは、その入口に家族がたどり着けるようにしておくだけです。

ただし、まとめる以上、守るべき条件が3つあります。

  • 置き場所は一つに決める(金庫、鍵のかかる引き出しなど)
  • 家族には中身ではなく、場所だけを伝えておく
  • 年に一度、最終更新日を書き換えながら見直す

「もし私に何かあったら、金庫の中の封筒を見てください」。生前に伝えるのは、これだけで十分です。

エンディングノートと遺言書は、目的が違う

ここは分けて考えてください。

エンディングノートと遺言書を左右に並べ、思いを伝えるものと財産の分け方を決めるものとして対比した図
片方があれば足りる、という関係ではありません。

エンディングノートは、家族への思いを伝えるものです。何を持っているか、どうしてほしいか、どんな気持ちでいるか。デジタル情報の保管場所も、ここに書いておけます。ただし法的な効力はありません。

遺言書は、財産をどう分けるかを決めるものです。これがあるだけで、遺族は安心して相続を進められます。

目的が違うので、どちらか一方ではなく、両方を用意することをおすすめします。

本当のゴールは、相続対策です

ここまで整理の方法を書いてきましたが、この記事で一番伝えたいのはここです。

私が考える相続対策とは、家族で話し合うこと。
居間のテーブルを囲んで、親世代と子世代がお金の話をしている家族のイラスト
切り出しやすい話題から始めれば、それで十分です。

家族が何をどう思っていて、どうしてほしいと考えているか。本人には、意外と分かっていません。逆もまた同じで、こちらの思いを家族が分かっていないことも多いのです。この点は家族でお金の話、できていますか?でも書きました。

デジタル終活は、そのきっかけとして、とても使いやすいテーマだと思います。お金の話は切り出しにくくても、「スマホのパスワード、どうしてる?」なら話せるからです。

なお、相続税がかかりそうな場合の考え方は1,500万円の相続対策に、保険は要りませんに書きました。あわせて読んでいただくと、整理から先の話まで見通せると思います。

そして、もう一つ書いておきたいことがあります。

お金を家族に残すことが愛情だという言い方をする人がいます。私はそうは思いません。

配偶者には、老後の心配がないようにある程度残す必要があります。しかし、子供には極力残さないほうがよいというのが私の考えです。

子供に対しては、魚を渡すのではなく、魚の釣り方を教える。そのほうが、自分の足で歩けるようになります。お金を渡せば渡すほど、人は弱くなるとも言われます。親のお金をあてにするようになれば、努力をしなくなるからです。

だから私自身も、生きているうちに、ある程度のお金は使い切りたいと考えています。お金は使って初めて価値が生まれるものです(家計管理は、自由な人生を選ぶための土台)。

ライフプランは、お金の整理です。エンディングノートは、思いの整理です。この二つを重ねたうえで遺言書を作る。それが、家族の幸せを願うための一番確実なやり方だと思っています。

まとめ

デジタル終活で、最初からすべてのIDとパスワードを書き出す必要はありません。

まずは、この4つからです。

資産の場所・続く支払い・端末の確認方法・家族が場所を知っているか、という4つのはじめの一歩を並べた図
全部そろわなくても、上から順に埋めていけば形になります。
  • どこに資産があるか
  • どの支払いが続いているか
  • スマートフォンやパソコンをどう確認するか
  • 整理した情報がどこにあるかを、家族が知っているか

そして、整理が終わったら、その先へ進んでください。

一覧を作ることが目的ではありません。それをきっかけに、家族と話すことが目的です。

まずはスマートフォンを開いて、利用している銀行、証券会社、カード会社、毎月引き落とされているサービスを書き出すところから始めてみてはいかがでしょうか。家計簿アプリを使っている方なら、その画面を開くだけでも、かなりの部分が見えるはずです。

自分でも忘れていたものが、必ず出てきます。それが、デジタル終活の最初の一歩です。

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