前回、借金の心配がある相続で大切なのは「亡くなったことを知る仕組み」だという話を書きました。
今回は、実際にその連絡が届いた後の話です。3か月という熟慮期間の中で、何を調べ、どのように手続きするのか。順番に整理します。
最初にすることは、何もしないこと
矛盾しているように聞こえますが、これが一番重要です。
亡くなった方の預金を解約する、家財を処分する、借金を故人のお金で返す、賃貸物件を片付けて遺品を持ち帰る。こうした行為は、相続財産の処分として相続を単純承認したものとみなされる可能性があります(民法921条1号)。単純承認とみなされれば、その後は相続放棄ができません。
財産の現状を維持する保存行為などは処分に当たらないとされていますが、どこまでが保存で、どこからが処分かは状況によって判断が分かれます。調査が終わるまでは動かさない、というのが安全な進め方です。

一方で、必ずやっておいてほしいことがあります。届いた郵便物を捨てずに保管することです。督促状、請求書、契約解除の通知、裁判所からの書類。封筒ごと、届いた日付が分かる形で残しておきます。これが、後の調査でも、熟慮期間の起算点を説明するときにも役立ちます。
信用情報の開示を請求する
金融機関やクレジットカード会社からの借入は、信用情報機関に記録されています。相続人は、亡くなった方の信用情報の開示を請求できます。
日本には三つの機関があり、扱う情報が異なるため、全体を調べるには原則として三つすべてに請求します。
| 機関 | 主な加盟先 | コンビニ利用券の購入額 |
|---|---|---|
| CIC | クレジットカード会社、信販会社、消費者金融など | 1,650円 |
| JICC | 消費者金融、信販会社など | 2,177円 |
| 全国銀行個人信用情報センター(KSC) | 銀行、信用金庫、信用組合など | 2,403円 |
| 合計 | 6,230円 |
CICは、開示手数料本体が1,500円ですが、コンビニ利用券の購入額は発券手数料込みで1,650円です。定額小為替を使う場合は1,500円に発行手数料が加わります。JICCとKSCの表中の金額には、コンビニチケットの発券手数料などが含まれています。
このほか、各機関へ書類を送る郵送料や、戸籍などの取得費用が必要です。手数料や様式は改定されることがあるため、請求前に各機関の公式サイトで最新の案内を確認してください。
必要書類は機関によって細部が異なりますが、おおむね次のようなものです。

- 所定の申込書
- 亡くなった方の死亡を確認できる書類
- 請求する人が相続人であることを確認できる戸籍関係の書類
- 請求する人の本人確認書類
結果が届くまでの日数は、機関や書類の状況によって異なります。JICCは申込書類の到着後7日から10日と案内しています。CICは、相続人が請求する場合、法定相続情報一覧図を添えると10日ほど、戸籍謄抄本などを複数そろえる場合は20日ほどと案内しています。いずれも請求時に最新の案内を確認してください。
なお、信用情報は一定期間が経過すると記録が消えます。完済や契約終了から年数が経った借入は、開示しても出てこないことがあります。また、金融機関等が債務者の死亡を把握した後、登録情報が削除される場合もあります。
三機関すべてに開示を求めても、「何も載っていない=債務がない」という証明にはなりません。
法定相続情報一覧図を使うと、戸籍の提出が楽になる
相続放棄と信用情報の開示を並行して進めると、戸籍謄本が何通も必要になります。ここで役立つのが、法務局の法定相続情報一覧図です。
相続関係を図にした公的な書面で、制度の利用自体は無料です。ただし、一覧図を作成するためには、最初に相続関係を確認できる戸籍を集め、法務局へ提出する必要があります。戸籍集めそのものを省略できる制度ではありませんが、その後の複数の手続きで、戸籍一式を何度も提出する負担を減らせます。
負担が減るだけではありません。先に触れたとおり、CICでは一覧図を添えると開示結果が10日ほどで届き、戸籍を複数そろえる場合の20日ほどより早くなります。3か月しかない熟慮期間では、この10日の差も判断材料をそろえるための大切な時間です。

一覧図の写しは、申出の際に必要な通数を無料で交付してもらえます。ただし、提出先によって取扱いが異なり、戸籍などの追加提出を求められることもあります。使う予定の機関や家庭裁判所へ、事前に確認しておくと確実です。
信用情報に載らない債務がある
ここが、調査で一番見落とされる部分です。
信用情報機関に記録されるのは、加盟している金融機関等との取引です。次のようなものは、信用情報を見ても分からないことがあります。
- 個人間の貸し借り
- 税金や社会保険料の滞納
- 家賃や公共料金、医療費の未払い
- 事業の買掛金や取引先への未払金
- 奨学金の一部
- 保証人としての債務
保証については、保証人になっているという情報が信用情報機関に記録されている場合もありますが、必ず確認できるとは限りません。保証契約は主債務者と債権者の関係の中で結ばれるため、保証人本人が請求を受けるまで気づかないこともあります。契約書の控えや、金融機関からの通知が自宅に残っていないかを確認してください。
税務上の扱いにも注意が必要です。保証債務は、相続税の計算上、原則として債務控除の対象になりません。ただし、主債務者が弁済不能の状態にあり、保証人が弁済しなければならず、主債務者へ求償しても返還を受ける見込みがない場合には、その部分について債務控除が認められるとされています(相続税法基本通達14-3)。実際に適用できるかは資料の裏づけ次第なので、税理士に確認するのが確実です。

つまり、「信用情報に記載がない」=「借金がない」ではありません。信用情報の開示結果に加えて、届いた郵便物、自宅に残っている書類、取引のあった金融機関の通帳履歴などを突き合わせて判断します。
相続放棄の手続き
引き受けないと決めたら、家庭裁判所へ相続放棄の申述をします。
申述先は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。相続人が遠方に住んでいても、故人の住所地の裁判所になります。郵送での申述も可能です。
費用は、申述人1人につき収入印紙800円と、連絡用の郵便料です。必要な郵便料は裁判所ごとに異なります。
必要書類は、申述する人と亡くなった方の関係によって変わります。共通して必要になるのは、相続放棄申述書、亡くなった方の住民票除票または戸籍附票、申述する人の戸籍謄本です。
子が申述する場合は、亡くなった方の死亡の記載がある戸籍謄本が加わります。
兄弟姉妹が申述する場合は、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍に加え、子などの先順位者がいないことや、両親などの直系尊属がすでに亡くなっていることを確認できる戸籍を集めます。この収集には手間がかかるため、早めに着手することをおすすめします。書類の範囲はケースによって変わるので、管轄の家庭裁判所の案内で確認してください。
申述後、裁判所から照会書が届くことがあります。相続放棄が本人の意思によるものか、財産に手をつけていないかなどを確認するものです。届いたら期限内に回答します。
受理されると、相続放棄申述受理通知書が届きます。通知書は再発行しないと案内している裁判所もあるため、原本は自分で保管します。正式な証明が必要な場合は、相続放棄申述受理証明書を取得できます。

相続放棄が受理されると、その相続については初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。プラスの相続財産を受け取る権利も、同時に失います。
なお、先順位の相続人が全員相続放棄をすると、父母などの直系尊属、さらに兄弟姉妹へと相続順位が移ることがあります。次に相続人となる親族がいる場合は、事情を伝えておくほうが親切です。
3か月で終わらないときは
調査が終わらないまま期限が近づくことは、実際によくあります。金融機関の照会に時間がかかる、不動産の評価が分からない、書類が集まらない。そういう場合の対応も用意されています。
熟慮期間の伸長の申立てです。相続財産の状況を調査してもなお、承認するか放棄するかを判断する資料が得られない場合に、家庭裁判所へ期間の延長を求める手続きです。
伸長の申立ては熟慮期間内に行う必要があります。期限を過ぎてから「間に合わなかった」と申し出るのでは遅いため、判断材料がそろわないと分かった段階で専門家へ相談し、必要に応じて申立てを検討します。申立先は相続放棄と同じ家庭裁判所で、費用は相続人1人につき収入印紙800円と連絡用の郵便料です。

相続によって得た財産の限度で債務を負担する限定承認という選択肢もあります。ただし、共同相続人がいる場合は原則として全員で行う必要があり、官報公告などの清算手続も伴います。また、値上がりした不動産などがある場合には、被相続人にみなし譲渡所得課税が生じることがあります。
司法統計では、令和6年の限定承認の受理件数は690件です。相続放棄が年間30万件を超えているのと比べると、利用がかなり限られている制度だと分かります。限定承認と熟慮期間の伸長は目的が異なるため、どちらを選ぶかを自分だけで判断せず、早めに専門家へ相談してください。
期限は並行して進む
相続では複数の期限が同時に流れます。どの手続きが必要になるかは相続の内容によって変わります。

| 手続き | 期限の目安 | 対象となる場合 |
|---|---|---|
| 相続放棄・限定承認 | 亡くなった事実と、自分が相続人になったことを知った時から3か月 | 相続を放棄する、または限定承認する場合 |
| 所得税の準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月 | 亡くなった方に確定申告が必要だった場合 |
| 相続税の申告・納付 | 相続の開始を知った日の翌日から10か月 | 相続や遺贈などで財産を取得し、申告が必要な場合 |
相続放棄をした人は、通常、相続財産を承継しません。ただし、死亡保険金などのみなし相続財産を受け取る場合は、相続税の申告が関係することがあります。「放棄したから税金の確認も不要」と決めつけず、受け取るお金がある場合は税理士や税務署へ確認してください。
相続放棄した後にも残ること
相続放棄をすれば債務は引き継ぎませんが、それで完全に無関係になるとは限りません。
相続放棄をした時に相続財産を現に占有している場合、次に管理すべき人へ引き渡すまで、自己の財産と同一の注意をもって保存する義務があります(民法940条)。故人の部屋や家財を実際に管理している場合や、遺品を自宅へ運んで保管している場合などは、専門家に確認してください。鍵を預かっているだけでも、管理の実態によって判断が変わることがあります。
また、相続人全員が相続放棄をしても、相続財産清算人が自動的に選ばれるわけではありません。債務の清算や不動産の処理などが必要な場合は、債権者などの利害関係人、または検察官が家庭裁判所へ選任を申し立てることができます。申立人に予納金の納付を求められる場合もあります。

まとめ
亡くなった方の借金を調べる手順は、次の流れになります。
- 財産に手をつけず、届いた郵便物を保管する
- 三つの信用情報機関へ開示を請求する
- 個人間の借入、税金の滞納、家賃、保証債務など、信用情報に載らない債務も確認する
- 判断が固まったら、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄を申述する
- 3か月で判断できない場合は、期限内に熟慮期間の伸長を検討する
コンビニ利用券で三つの信用情報機関へ請求する場合、購入額は合計6,230円です。これに書類の郵送料や戸籍などの取得費用が加わります。
手続き自体より難しいのは、期限内に判断材料をそろえることです。前回書いたとおり、備えの中心は「亡くなったことを知る仕組み」にあります。そのうえで、いざそのときが来たら、動かさずに調べる。この順番を守れば、選択肢を残しやすくなります。

判断に迷う場面が一つでもあるなら、3か月を自力で使い切る前に相談してください。
※本記事は制度の一般的な説明であり、個別の事案に対する法的・税務的な助言ではありません。手数料や必要書類は変更されることがあります。実際の手続きは、各機関の公式情報を確認のうえ、弁護士・司法書士・税理士等の専門家にご相談ください。