退職金は、一括で受け取るか、年金で受け取るか。
受取総額が多い方法を選んでも、手取りまで多くなるとは限りません。
定年や退職が近づくと、勤務先から退職金の受け取り方を確認されることがあります。
一括で受け取る「一時金」にするのか、一定期間または生涯にわたって受け取る「年金」にするのか。それとも、両方を組み合わせるのか。
長く働いてきた結果として受け取る大切なお金ですから、できるだけ有利に受け取りたいと考えるのは当然です。
しかし、退職金は、額面の受取額だけで決めればよいものではありません。
受け取り方によって所得の扱いが変わり、税金だけでなく、国民健康保険料や介護保険料に影響する場合があります。さらに、所得区分によっては、医療や介護サービスを利用したときの自己負担割合が変わることもあります。
退職金の受け取りは、老後設計の大きな分岐点
老後のお金を考えるうえで、定年・退職を迎える時期は大きな分岐点になります。
それまで毎月入っていた給与が変わり、再雇用後の収入や公的年金を中心とした生活へ移っていきます。その切り替わりの時期に、まとまった退職金をどのように受け取るかを判断しなければなりません。

ここで自分の状況に合った選択ができれば、その後の生活に安心を持ちやすくなります。
一方、十分に確認しないまま決めてしまうと、想定していたより税金や社会保険料の負担が大きくなり、手取りが少なくなる場合があります。
退職金の受け取り方は、単なる受取方法の選択ではありません。これからの収入と支出、資産の使い方を含めた老後設計の一部として考える必要があります。
相談内容は、ご家庭によって大きく違う
ご相談のなかでも、退職金についてのお問い合わせは特に多いテーマです。
ただし、相談に来られる方の状況は一人ひとり違います。
- 十分な資産があり、退職金をどのように配分すればよいか迷っている方
- 老後資金が不足するのではないかと不安を感じている方
- 退職後も住宅ローンの返済が残る方
- まだ学生のお子さんがいて、教育費が必要な方
- 再雇用や転職など、退職後も働く予定の方
- iDeCoや企業型確定拠出年金など、別の資産も受け取る方

保有している資産、家族構成、住宅ローン、退職後の働き方、公的年金の見込額によって、適した受け取り方は変わります。
そのため、「一時金と年金のどちらが得ですか」という質問に、全員に当てはまる一つの答えを出すことはできません。
共通するのは「どう受け取ればよいか分からない」という悩み
家計状況はそれぞれ違いますが、多くの方に共通する悩みがあります。
それは、退職金をどのように受け取ればよいのか分からないということです。
勤務先から説明を受けても、制度の概要や税金の話が中心になり、自分の老後生活に当てはめたところまで判断できないことがあります。
- 一時金の方が税制上有利だと聞いた
- 年金の方が受取総額は多くなると説明された
- まとまったお金を持つのは不安なので、毎月受け取れる方が安心だと思う
どれも判断材料の一つではありますが、それだけで決めることはできません。

まず必要なのは、多くの方に共通する基本的な仕組みを理解することです。そのうえで、自分の家計や将来の予定に当てはめて考えます。
受け取り方には、一時金・年金・組み合わせがある
退職金の主な受け取り方には、次の三つがあります。

一時金で受け取る
退職時に、まとまった金額を一括で受け取る方法です。
税制上は「退職所得」として扱われ、長年の勤続に配慮した退職所得控除などがあります。受け取ったお金を住宅ローンの返済や老後資金として、自分で管理しやすい方法です。
一方、まとまったお金が手元に入るため、使いすぎたり、十分に検討しないまま投資へ回したりすることには注意が必要です。
年金で受け取る
退職金や企業年金を、一定期間または生涯にわたって分割して受け取る方法です。
定期的な収入になるため、生活費として管理しやすく、終身年金を選べる制度であれば、長生きしたときの収入を確保できる利点があります。
一方、年金として受け取ると、一般に公的年金等に係る雑所得として扱われます。公的年金など、ほかの所得と合わせた結果、税金や社会保険料の負担が増える場合があります。
一時金と年金を組み合わせる
一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取る方法です。
当面必要になるお金は一時金で確保し、その後の生活費は年金で補うなど、それぞれの特徴を生かせる可能性があります。
ただし、すべての勤務先や企業年金で自由に組み合わせられるわけではありません。まずは、ご自身の制度で選べる受取方法を確認する必要があります。
税金だけを見ても、答えは出ない
退職金の説明では、退職所得控除など、税金の話が注目されがちです。
もちろん、税金は重要です。しかし、実際の手取りや老後生活を考えるには、それだけでは足りません。
- 退職後も働くのか
- 給与はいくらになるのか
- 公的年金をいつから、いくら受け取るのか
- 健康保険はどの制度に加入するのか
- iDeCoや企業年金をいつ受け取るのか
- 住宅ローンや教育費など、まとまった支出が残っているか
- 一時金を自分で管理できるか

これらを同じ時間軸に並べて、税金、社会保険料、毎年の収支を確認して初めて、受け取り方を比較できます。
税金を抑えられても、その後の社会保険料が増えれば、思ったほど手取りが残らないことがあります。
税負担だけを見れば、一時金が有利に思える場合もあります。しかし、年金には、定期的な収入を確保しやすいという利点があります。終身年金を選べる制度であれば、長生きして資産が不足するリスクへの備えにもなります。
一律の正解ではなく、自分に合う答えを探す
退職金の受け取り方には、多くの方に共通する確認事項があります。
しかし、最終的な答えは一人ひとり違います。
- 資産に余裕があり、まとまったお金を自分で管理できる方
- 毎月決まった収入がある方が安心できる方
- 住宅ローンの一括返済を考えている方
- 退職後も働きながら、給与と年金を受け取る方
- iDeCoや複数の退職金があり、受け取る順番を考える必要がある方

有利な受け取り方は、その人の家計状況と今後の生活によって変わります。
だからこそ、勤務先から提示された受取総額だけで決めず、税金や社会保険料を差し引いた手取りと、受取後の使い方まで考えることが重要です。
次回は、モデルケースで手取りを比べます
では、同じ退職金を一時金で受け取る場合と、年金で受け取る場合では、額面と手取りにどのくらいの差が生まれるのでしょうか。
次回は、独自に設定したモデルケースを使い、税金や社会保険料を含めて比較します。

その後の連載では、退職所得控除、iDeCoと退職金の受取順序、年金受け取りの特徴、一時金と年金を組み合わせる方法を順番に取り上げます。
退職金を受け取る直前に慌てて考えるのではなく、まずは勤務先の制度と、自分が選べる受取方法を確認するところから始めてみてください。
参考資料
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の受け取り方を推奨するものではありません。税制や社会保険の制度は変更される場合があります。実際のご判断にあたっては、勤務先の制度内容をご確認のうえ、必要に応じて税務署や税理士などの専門家へご相談ください。