子どもの将来のために、子ども名義の口座を作ってコツコツ積み立てる。珍しいことではありません。
ところが、口座の名義が子どもでも、実際にお金を出したのが親で、通帳や印鑑を親が持ち、子どもが自由に使えない状態なら、税務上は親の財産と判断されることがあります。いわゆる「名義預金」です。
子どもの通帳でも、子どもの財産とは限らない
プレジデント2026年9月18日号に、元国税職員で相続税調査に長く携わった税理士への取材をもとにしたコラムが掲載されていました。記事では、子ども名義で貯めた1,000万円が親の相続財産に戻される事例が紹介されています。
善意で積み立てたお金でも、名義を変えただけでは財産を渡したことになりません。親が亡くなったときに名義預金と判断されれば、親の相続財産に含めて相続税を計算します。生前に子どもへ本当に渡したと認められれば、その時点で贈与税の問題になります。
なお、そもそも渡す相手(相続人)がいない場合の備え方は、おひとりさまの相続、「誰かがやってくれる」は成り立つのかで整理しています。

名義預金とは、「渡したつもりだったが、渡したことになっていなかったお金」です。
名義預金が1,000万円あると、税額はどう変わるか
相続人が子ども2人で配偶者はおらず、申告した遺産総額が6,000万円だったとします。
相続税の基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人2人=4,200万円です。この条件で計算すると、相続税の総額は180万円です。
ところが、子ども名義の預金1,000万円が親の財産と認定されると、遺産総額は7,000万円になります。相続税の総額は320万円となり、差額は140万円です。

| 項目 | 名義預金なし | 名義預金1,000万円を加算 |
|---|---|---|
| 遺産総額 | 6,000万円 | 7,000万円 |
| 相続税の総額 | 180万円 | 320万円 |
| 税額の差 | - | +140万円 |
これは、名義預金1,000万円に一律140万円の税金がかかるという意味ではありません。相続人の人数、ほかの財産、債務、各種控除などによって税額は変わります。
問題は、子どものために用意したつもりのお金が子どもの財産として認められず、親の相続財産に戻されることです。
税務署は、名義ではなく実態を見る
相続税の確認では、亡くなった方の口座だけでなく、必要に応じて配偶者や子どもなど親族名義の預金についても、お金の流れや管理状況が確認されます。

- 預金の原資を誰が負担したか
- 通帳、印鑑、キャッシュカードを誰が保管していたか
- 口座の名義人は、その口座の存在を知っていたか
- 名義人が自分の判断で預金を使えたか
- 利息などの利益を誰が受け取っていたか
- 贈与する側と受け取る側に、本当に「あげる・もらう」という合意があったか
親の口座から出金し、子どもの口座へ同額を振り込めば、お金が動いた記録は残ります。しかし、振込記録だけで贈与の合意まで証明できるとは限りません。親が一方的に子ども名義の口座へ移した場合も、通帳上は同じように見えるからです。
反対に、贈与契約書があっても、子どもが口座の存在を知らず、親が通帳を持って自由に動かしていれば、書面どおりの贈与が実際に行われたのかを疑われる余地があります。
重要なのは、書類一枚ではなく、贈与の合意と、その後の管理・利用の実態が一致していることです。
名義預金と判断されないために確認したいこと
家族名義の預金がある場合は、次の5点を確認します。

| 確認項目 | 考え方 |
|---|---|
| 贈与する側と受け取る側の合意があるか | 贈与は一方的な入金ではなく、双方の合意によって成立します |
| お金の移動を記録できるか | 現金の手渡しより、口座振込のほうが記録を残しやすくなります |
| 通帳・印鑑・カードを誰が管理しているか | 名義人本人が管理していることは重要な判断材料です |
| 名義人が自由に使えるか | 親の許可がなければ使えない状態では、本人の財産と説明しにくくなります |
| 必要な贈与税申告をしているか | 暦年課税では、受け取った人の年間の贈与総額が基礎控除110万円を超える場合、原則として申告が必要です |
この5点のどれか一つだけで結論が決まるわけではありません。贈与契約書や振込記録は大切な資料ですが、それだけで十分とも、書類がないから必ず名義預金になるとも言い切れません。実際の判断は、資金の出所、合意、管理、利用状況などを総合して行われます。
なお、年間110万円は「贈与者1人につき110万円」ではありません。暦年課税では、原則として受贈者がその年に複数の人から受けた贈与を合計し、基礎控除110万円を差し引いて計算します。
そして、110万円以内なら名義預金にならない、ということでもありません。贈与が成立していなければ、金額が基礎控除以内でも親の財産のままです。
名義預金と贈与税の「時効」は別の話
「名義預金には時効がないが、贈与税には時効がある」と説明されることがあります。しかし、この言い方だけでは、何年も経てば税金が消えるようにも聞こえます。
正確には、税務署が税額の更正や決定をできる期間に制限があります。贈与税は原則として法定申告期限から6年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。相続税は原則5年、不正がある場合は7年です。
ただし、名義預金は「過去に成立した贈与」ではありません。贈与が成立していなければ、その預金は何年たってもお金を出した親の財産です。親が亡くなった時点で相続財産に含め、その相続に対する相続税を計算します。

| 項目 | 成立した贈与 | 名義預金 |
|---|---|---|
| 前提 | あげる側ともらう側の合意があり、財産が移っている | 名義だけが子どもなどになり、実質的には親が所有・管理している |
| 誰の財産か | 贈与を受けた人 | お金を出し、実質的に管理している親 |
| 問題になる税金 | 贈与税 | 親の死亡時の相続税 |
| 更正・決定できる期間 | 原則、贈与税の法定申告期限から6年 | 原則、親の相続税の法定申告期限から5年 |
したがって、「20年前に子どもの口座へ入金したから、もう贈与税の期間は過ぎた」という説明だけでは名義預金を外せません。
争点になるのは、入金から何年たったかではなく、入金した当時に贈与が成立し、その後も子どもの財産として管理されていたかです。
「名義預金は贈与税の時効で逃げ切れない」というのは、この意味です。名義預金という税金が永遠に課され続けるわけではなく、親の財産である以上、親の死亡によって生じる相続税の問題として扱われます。
税務調査で大切なのは、答え方ではなく事実
過去の入金について贈与が成立していたなら、贈与税の期間制限が問題になります。一方、贈与が成立していなければ、親の相続財産に含まれます。同じ預金でも、事実関係によって結論が変わります。

そのため税務調査では、通帳の保管場所、届出印、入出金履歴、名義人が口座を認識していたか、実際に使ったことがあるかなどが確認されます。
大切なのは、質問への答え方を工夫することではありません。贈与当時からの事実を、資料とともに説明できる状態にしておくことです。実態と異なる回答をすれば、かえって問題を大きくします。
事前に整えるべきなのは「税務署に指摘されない言い方」ではなく、贈与として説明できる合意、記録、管理の実態です。
わが家の通帳を見直して気づいたこと
わが家にも、子ども名義で親が持っていた通帳がありました。名義預金の問題を知ってから、通帳を子どもへ渡し、本人が管理する形に変えています。以後、お金を渡す場合は現金ではなく振込にし、暦年課税の基礎控除も意識しています。
ただし、今回改めて調べて分かったのは、通帳を現在渡しただけで、過去の入金まで贈与だったことになるわけではないという点です。

過去のお金を親が管理していたなら、その残高をいつ、どのような合意で本人へ渡したのかが新たな問題になります。残高が大きければ、管理を移した時点の贈与と判断され、贈与税が関係する可能性もあります。
したがって、「今日から本人管理にすれば全部解決する」とは言えません。これから積み立てるお金と、すでに口座にある残高を分けて考える必要があります。過去の経緯が長い場合や金額が大きい場合は、通帳を動かす前に相続税に詳しい税理士へ確認したほうが安全です。
贈与契約書についても、同じことが言えます。贈与は口頭の合意でも成立するため、契約書がなければ贈与にならないわけではありません。一方、振込はお金の移動しか示さないため、契約書は「あげる・もらう」という合意を残す補強資料になります。
契約書は万能ではありませんが、金額が大きい、受贈者が未成年、相続人同士で後から争う可能性があるなどの場合には、作成する意味が大きくなります。
生前贈与加算の7年とは混同しない
相続や遺贈で財産を取得した人が、亡くなった方から一定期間内に暦年課税による贈与を受けていた場合、その贈与財産を相続税の課税価格へ加算する制度です。
2024年1月1日以後の贈与から、加算対象期間は3年から7年へ段階的に延長されています。

- 2026年12月31日までに相続が始まった場合は、相続開始前3年以内
- 2027年1月1日から2030年12月31日までは、2024年1月1日から相続開始日まで
- 2031年1月1日以後は、相続開始前7年以内
延長された部分、つまり相続開始前3年を超えて7年以内の贈与については、その合計額から100万円を差し引いた残額が加算対象になります。毎年100万円ではなく、延長された期間全体で100万円です。
また、贈与税の基礎控除110万円以内だった贈与も、生前贈与加算の対象になり得ます。贈与税がかからないことと、将来の相続税の計算へ加算されないことは別の問題です。
生前贈与加算は、きちんと成立した贈与についての制度です。贈与そのものが成立していない名義預金とは分けて理解する必要があります。
まとめ——渡すなら、実態まで渡す
名義預金は、税金だけの問題ではありません。誰のお金なのかを曖昧にしたまま、長期間置いてしまうことが問題です。
渡すのであれば、双方で贈与の意思を確認し、お金の移動を記録し、その後の管理も本人へ移す。そこまでそろって、初めて「名義だけでなく実態も渡した」と説明しやすくなります。

本人へ管理を移せないのであれば、無理に子ども名義の口座へ入れず、親自身の財産として管理し、将来の相続で渡す方法もあります。中途半端な状態で置くことが、最も分かりにくさを残します。
まずは、家族名義の口座について、次の点を確認してください。
- お金を出したのは誰か
- 通帳・印鑑・カードを持っているのは誰か
- 名義人本人は口座を知っているか
- 本人が自分の判断で使えるか
- 贈与について記録や申告が残っているか
心当たりがあっても、急いで通帳や残高を動かす必要はありません。過去の経緯と現在の残高を整理したうえで、金額が大きい場合は税理士へ相談してください。
知識がなかったために、家族のためにしたことが逆の結果になるのは残念なことです。節税の形を整えるより先に、誰の財産なのかを家族で明確にしておく。それが、名義預金への一番確かな備えになります。
相続対策として保険を使うかどうかも、同じ順番で考えます。こちらは1,500万円の相続対策に、保険は要りませんに書きました。
※本記事は一般的な情報の整理であり、個別の税務判断を行うものではありません。贈与の成立や預金の帰属は、合意、資金の出所、管理・利用状況などによって個別に判断されます。実際の対応は、相続税に詳しい税理士へご相談ください。制度は2026年9月時点の内容です。
参考資料
- プレジデント 2026年9月18日号「子名義の1000万円が『親の財産』に戻されるワケ」
- 国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
- 国税庁「相続税がかかる財産」
- 国税庁 税務大学校「名義預金等の帰属に関する研究資料」