親が元気なうちに実家を売るのか、相続してから売るのか。貸すのか、残すのか。答えは家族ごとに違いますが、判断する順番は整理できます。
実家の話は、相談でも雑談でもよく出てきます
「親が住んでいる実家を、将来どうしたらいいだろう」。この話は、相談の場だけでなく、知人との雑談でもよく出てきます。

不動産投資を20年ほど続けてきた経験からも、実家の問題に一つの正解はないと感じます。立地、建物の状態、家族関係、親御さんの希望、税制によって答えが変わるからです。
ただし、何から確認すればよいかは共通しています。いきなり「売る」「貸す」と結論を出すのではなく、順番に判断材料をそろえることが大切です。
最初の分かれ道は「売るか、貸すか」ではありません
実家について考えるとき、多くの方は「売るか」「貸すか」から話を始めます。しかし、その前に確認したいことがあります。
「育った家をなくしたくない」「親が守ってきた家を自分の代で手放すのは申し訳ない」。こうした気持ちがあるのは自然なことです。家は資産である前に、家族の記憶が残る場所でもあります。

だからこそ、最初に決めたいのは、売るか貸すかではなく、感情を優先するのか、実態の合理性を優先するのかです。
感情を優先して残すことも、一つの正解です。ただし、その場合は、固定資産税、火災保険、庭木の手入れ、通風や点検のための往復、修繕費などを負担し続けることになります。その費用と手間を理解したうえで残すなら、後悔の少ない選択になります。
問題なのは、どちらを優先するのか決めないまま、「とりあえず置いておく」ことです。結論を先送りしている間にも、建物は傷み、維持費は発生します。
家族で話し合うときも、まず、それぞれが感情と合理性のどちらを重視しているのかを確認してください。ここが見えていないと、数字をいくら並べても話し合いは平行線になります。
合理性を優先するなら、売却を軸に考える
感情を整理したうえで、合理性を優先すると決めた場合、住む予定がなければ、基本的には売却を軸に考えることをおすすめします。

理由は、持ち続ける負担が想像以上に大きいからです。空き家のまま持てば、定期的に風を通し、庭の草を刈り、雨漏りや建物の傷みを確認する必要があります。遠方に住んでいれば、往復だけでも一日仕事です。管理を怠れば、建物の劣化だけでなく、近隣からの苦情や防犯上の問題にもつながります。
貸せば簡単に解決するとも限りません。賃貸に出すための修繕、入居者募集、家賃設定、設備の故障、退去時の原状回復など、次々に判断を求められます。管理会社へ委託しても、所有者として判断する仕事までなくなるわけではありません。
不動産賃貸に慣れていない方が、家賃収入だけを見て始めると、想定以上の負担を感じることがあります。修繕費が先に必要になり、空室中は収入がなくても固定費が出ていきます。
もちろん、立地や建物の状態が良く、賃貸経営を引き受ける意思と資金があるなら、貸すことも選択肢です。しかし、「売るのはもったいないから、とりあえず貸す」という順番ではなく、賃貸事業として成り立つかを確認してから決める必要があります。
その家は、売れる家か、貸せる家か
売却や賃貸を検討するとき、次に見るのは不動産の市場性です。かなりの田舎では、価格を下げても買い手が見つからないことがあります。値段の問題ではなく、その地域で家や土地を探している人が少ないためです。

確認したいのは、次のような点です。
- 駅、バス路線、幹線道路などの交通環境
- スーパー、ドラッグストア、病院など生活施設までの距離
- 学校や教育施設、通学環境
- 周辺の売買事例と賃貸募集の状況
- 建物の修繕履歴、耐震性、境界や接道の状況
交通や生活の利便性が高い場所なら、売却価格や賃貸需要を期待できます。一方、車がなければ生活できず、近くに働く場所もない地域では、売却も賃貸も難しくなる可能性があります。
この見極めを、所有者だけで行うのは簡単ではありません。実家には思い出があるため、市場の評価より高く見てしまうこともあります。
売る場合も貸す場合も、複数の不動産会社へ相談してください。1社の査定額だけで決めず、査定の根拠、想定する買い手や借り手、売却までにかかる期間を聞きます。高い査定額を出した会社が、最も高く売ってくれる会社とは限りません。その金額で売れる理由まで確認することが大切です。
実家がマンションなら、見るところが変わります
実家がマンションの場合は、戸建てとは確認するポイントが異なります。利便性が高く、管理状態の良いマンションであれば、築年数が古くても売却や賃貸の選択肢が残りやすくなります。ただし、「駅に近いから必ず売れる」「マンションなら管理が楽」とは言い切れません。

マンションでは、特に次の点を確認します。
- 駅や生活施設からの距離
- 管理組合が機能しているか
- 長期修繕計画と修繕履歴
- 修繕積立金の残高と今後の値上げ予定
- 大規模修繕の一時金が予定されていないか
- 専有部分の給排水設備や内装の状態
- 耐震性、借地権、建替え・敷地売却の検討状況
共用部分は管理組合や管理会社が管理しますが、室内である専有部分は所有者の管理です。空室でも管理費と修繕積立金は毎月発生し、室内の換気や設備の確認も必要です。
また、後ほど説明する「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」は、区分所有建物であるマンションは対象外です。
市場性が高いマンションは、急いで安く手放さずに比較検討できる場合があります。ただし、親御さんの判断能力や、生前売却に使える税制の期限は別に進むため、話し合いまで先延ばしにしてよいわけではありません。
実家の行き先は6通りに整理できる
選択肢は多いように見えますが、「建物を残すか、壊すか」と「住む、売る、貸す」を組み合わせると、6通りに整理できます。

| 建物 | 住む | 売る | 貸す・活用する |
|---|---|---|---|
| 残す | 家族が住む。解体・新築費は不要だが、修繕や耐震費が必要 | 中古住宅として売る。解体費は不要だが、古い家は建物に値がつきにくい | 戸建てとして貸す。家賃収入を得られるが、改修・空室・管理の負担がある |
| 壊す | 自宅へ建て替える。暮らしに合う家にできるが、解体・建築費が必要 | 更地で売る。買い手が用途を選びやすいが、解体費を先に負担する | 駐車場や賃貸住宅として活用する。収益化の可能性があるが、初期投資と事業リスクがある |
建て替えて賃貸住宅を建てる、駐車場として運営するといった選択は、不動産投資を始めることでもあります。
相続をきっかけに、経験のないまま大きな借入れをして賃貸経営へ進む場合は慎重な検討が必要です。提案された収支計画だけでなく、空室率、将来の家賃下落、修繕費、借入金利が上がった場合も試算してください。
6通りを家族の前に並べ、できないもの、望んでいないものを消していくと、現実的な選択肢が見えやすくなります。
方向性を決めてから、税制と築年数を確認する
感情、市場性、利用方法を整理したら、税制と期限を確認します。ここで重要になるのが、実家が戸建てかマンションか、そして戸建ての場合は1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家かという点です。

相続した古い戸建てを売る場合、一定の条件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除」、いわゆる空き家特例を使える可能性があります。譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。
主な対象は、1981年5月31日以前に建築され、区分所有建物ではなく、相続開始直前に亡くなった方が一人で住んでいた家屋とその敷地です。一定の要件を満たす老人ホーム等への入所については例外もあります。
1981年6月1日以後に建築された戸建てやマンションは、この空き家特例の対象外です。ただし、対象外だから生前売却が必ず有利になるわけではありません。
親御さんが生前に自宅として売却する場合は、「マイホームを売ったときの3,000万円特別控除」を使える可能性があります。一方、生前に売って不動産を現金に変えると、相続税の計算や、その後の住まい・生活費にも影響します。
築年数によって機械的に決めるのではなく、空き家特例の対象外なら、生前売却も含めて早めに比較する、という捉え方が適切です。まず、登記事項証明書や固定資産税の納税通知書などで、建物の種類と建築年月日を確認してください。
生前に売るか、相続後に売るかで税額が変わる
親御さんが自宅として使っていた家を生前に売る場合、一定の条件を満たせばマイホームの3,000万円特別控除を利用できます。築年数や、戸建て・マンションという違いだけでは対象外になりません。
一方、子どもが実家を相続して売る場合、子ども自身がその家に住んでいなければ、通常は子どものマイホームを売ったことにはなりません。その代わり、古い戸建てなど一定の条件を満たす場合は空き家特例を検討します。

税額差のイメージを、単純な例で見てみます。5,000万円で購入した家を8,000万円で売却し、取得費や譲渡費用などは考慮しないとします。譲渡益は3,000万円です。所有期間が5年を超える長期譲渡であれば、所得税・住民税・復興特別所得税を合わせた税率は20.315%なので、税額は約609万円になります。
3,000万円の特別控除を全額使えれば、この例では課税譲渡所得がゼロになります。ただし、実際の計算では、取得費、売却費用、所有期間、共有持分、ほかの特例との関係などを確認する必要があります。「控除を使えば必ず600万円得をする」という意味ではありません。
数百万円単位で結果が変わる可能性があるため、売買契約を結ぶ前に、どの特例が使えるかを税理士へ確認することが大切です。
空き家特例には、条件と期限がある
空き家特例は効果の大きい制度ですが、主な条件を一つでも外すと利用できません。

売却期限
相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する必要があります。また、現在の制度上の適用期限は2027年(令和9年)12月31日です。
売却代金
売却代金が1億円以下であることが条件です。共有者が別々に売る場合などにも判定上の注意があるため、1億円に近い売却では事前確認が必要です。
相続後の利用
相続してから売却するまで、事業、貸付け、居住の用に使っていないことが求められます。「売るまでの間だけ貸す」という判断によって、特例が使えなくなる可能性があります。
相続人の人数
2024年1月1日以後の譲渡では、対象となる家屋と敷地等を取得した相続人が3人以上の場合、控除上限は1人あたり2,000万円です。2人以下の場合は、1人あたり最高3,000万円です。人数だけで合計控除額を決められるわけではなく、それぞれが特例の要件を満たす必要があります。
建物の状態
売却時までに一定の耐震基準を満たすか、家屋を取り壊すことなどが必要です。
2024年以後の譲渡では、売却後、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修または家屋の取壊しを行う場合も、一定の条件で対象になりました。ただし、買主の協力が必要になるため、売買契約の段階から確認しておく必要があります。
空き家特例を使えるつもりで売却を進め、後から条件を満たしていないと分かるのが最も避けたいケースです。売却前に、市区町村、税理士、不動産会社へ必要書類と段取りを確認してください。
期限は3つある
実家の方針を考えるなら早いほうがよい理由は、3種類の期限が同時に進むからです。

相続からの期限
空き家特例には、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までという売却期限があります。
制度そのものの期限
現行の空き家特例の適用期限は、2027年12月31日です。税制は延長・改正されることがありますが、延長を前提に計画することはできません。
親御さんが判断できる時間
親御さんの判断能力が低下すると、本人だけで売却を進めることが難しくなります。
成年後見制度などを利用して売却する道はありますが、成年後見人が本人の居住用不動産を処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。査定書や売買契約書案などの資料をそろえ、売却が本人のために必要であることを説明します。
売却そのものが絶対にできなくなるわけではありませんが、家族の希望だけで自由な時期に進めることは難しくなります。
税制の期限は将来延長される可能性があります。しかし、親御さんと直接話し合い、本人の希望を確認できる時間は戻りません。この意味で、最も重い期限は、親御さんが自分で判断できる時間です。
売れない土地と、放置するリスク
売却しようとしても、買い手が見つからない土地があります。その場合の選択肢の一つが、相続土地国庫帰属制度です。

相続や遺贈によって取得した土地を、一定の条件のもとで国に引き取ってもらう制度です。ただし、建物がある土地は申請できません。家屋や物置などを自費で撤去してから申請する必要があります。
審査手数料は土地1筆につき14,000円で、申請を取り下げた場合や却下・不承認になった場合も返還されません。承認後は、原則20万円を基本とする負担金が必要で、土地の種類や所在地、面積によって高くなる場合があります。
境界が明らかでない土地、担保権や使用収益権がある土地、土壌汚染や管理を妨げる埋設物がある土地などは、申請できない、または承認されない可能性があります。
なお、相続人がいない、あるいは全員が相続放棄をした場合、不動産の処理は別の手続きになります。おひとりさまの相続、「誰かがやってくれる」は成り立つのかで整理しています。
解体費について、自治体が補助制度を設けている場合もあります。条件は自治体ごとに異なるため、実家がある市区町村へ確認してください。
そして、最も避けたいのが放置です。空家法に基づき、市区町村から管理不全空家として勧告を受けると、その敷地は住宅用地に対する固定資産税等の課税標準の特例から外れる可能性があります。
一般に「固定資産税が最大6倍」と説明されることがありますが、これは小規模住宅用地の課税標準を6分の1にする特例が外れることを指した表現です。実際の税額が必ず6倍になるわけではありませんが、負担が大きく増える可能性があります。
持っているだけで費用がかかり、放置すれば税負担や管理責任が重くなり、建物が傷めば売却条件も悪くなります。空き家は、時間が味方をしてくれるとは限らない資産です。
まとめ——答えではなく、判断の順番を決める
実家をどうするかは、家族ごとに答えが違います。ただし、判断する順番は整理できます。

- 感情を優先するのか、合理性を優先するのかを家族で確認する
- 売れる家か、貸せる家かを複数の不動産会社へ確認する
- 戸建てかマンションか、建築年月日、管理状態を確認する
- 残す、売る、貸す、壊すという選択肢を比較する
- 利用できる税制と期限を、契約前に専門家へ確認する
合理性を優先し、家族が住む予定もないのであれば、売却を軸に考えるのが基本です。ただし、売れない土地、収益性のある賃貸物件、管理状態の良いマンションなど、事情によって答えは変わります。
最初から税金だけで決めるのではなく、感情と市場性を整理したうえで、税制と期限を確認する。この順番なら、家族も話し合いやすくなります。
何より、生前から正しい情報をもとに話しておくことが大切です。親御さんの希望を確認しないまま相続を迎えると、残された家族だけで重い判断をすることになります。
生前に動かすという意味では、預金にも似た論点があります。子ども名義の預金は誰のもの?——名義預金は贈与税の「時効」では解決しないもあわせてご覧ください。
まずは、実家の登記事項証明書や固定資産税の納税通知書を確認し、建物の種類と建築年月日を調べてください。そのうえで、不動産会社へ売却・賃貸の可能性を聞き、家族で希望を共有する。これが最初の一歩です。
※本記事は2026年9月時点の制度に基づく一般的な情報です。不動産の市場性や税制の適用可否は、建物の状態、利用履歴、売却時期、共有状況などによって変わります。実際の売却や申告は、契約前に税理士および複数の不動産会社へご確認ください。
参考資料
- プレジデント 2026年9月18日号 PART3「判断の鍵は実家の築年数 売るか持つか、後悔しない出口戦略」
- 国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 国税庁「マイホームを売ったときの特例」
- 国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置」
- 国土交通省「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」
- 裁判所「成年被後見人(被保佐人、被補助人)の居住用不動産の処分についての許可」